今日は2月29日。僕は毎朝放送の一次面接の控室にいた。
周囲の学生からは、心なしかクリエイティブな香りが漂っている。
僕は努めて平常心を保ちながら、頭の中で自己PRを何度も反芻した。学生時代に頑張ったこと、強み弱み、なんでも聞いてくれ。
しばらくすると、順番が回って来て、僕は小さな面接ブースに案内された。
長机を挟んだ向こう側には、いかにも業界人といった感じの面接官がいる。
「では、自己紹介をしてください」面接官が言った。
「神戸大学経営学部3回生の小林亮と申します。大学では学園祭実行委員会に所属し――」
「あ、そういうの、いらないから」面接官はバッサリと僕の話を遮り、矢継ぎ早に言った。
「で、君はウチで何がやりたいの」
僕は虚を突かれた。自己PRしか考えてなかったので、何も言えない……。
「君たち学生ってさ、自己PRだと饒舌なくせに、志望動機のことになると、全然ダメだよね。ぶっちゃけ、やりたいこともないようなバカ要らないから。もう帰っていいよ。ハイ!不採用」
面接官は、手に持っていたバインダーをパタリと閉じた。
……不採用……不採用……不採用……嫌だあああああ……
「亮……!おい、亮、起きろ!」どこからか孔明の声がする。
……ハっ!僕は飛び起きた。ここは自分の部屋だ。どうやら夢を見ていたようだ。
携帯を確認すると、今日はまだ2月28日、面接の前日だった。
「先生、志望動機!志望動機を考えなくては!」
僕は憑りつかれたようにパソコンの前に座り、毎朝放送のホームページにアクセスした。
「おいおい。落ち着け。まあそこに座れ」そう言って、孔明は僕にホットココアを差し出した。
それを一口飲み、僕はようやく正気を取り戻した。
「亮よ、志望動機を考える時に最もやってはいけないことはな、今お前がやったように、目的意識も無く、闇雲に企業の情報を調べることだ」
「え、なぜダメなのですか」
「このやり方は、二つの問題がある。一つは、やたらと時間がかかって、効率が悪いことだ。網羅的に調べようとしても、企業に関する情報は膨大でキリがない」
「確かに。僕も、企業研究ってどこまでやればいいのだろうっていつも思います」
「そうだろう。そして、もう一つの問題は、話の筋が定まらず、説得力が弱くなることだ。
適当に集めた情報を切り貼りして作られた志望動機は、支離滅裂で、何が言いたいのかさっぱり分からない」
「耳の痛い話です」
「うむ。では、そうならないために、この二つの問題を解決する全く新しい志望動機作成法を伝授しよう。名付けて、『エビタイ理論』だ」
「エビタイ理論……」
「大丈夫。すぐに意味が分かる。この理論をマスターするためには、まず志望動機の構造について知る必要がある。志望動機は、大別すると、二つの部分から構成される」
そう言って孔明は、ホワイトボードに、
志望動機=タイ+エビ
と書いた。
「一つ目の部分は、『人を笑顔にしたいです』『成長したいです』等、「自分は○○したい」という、志望動機の核となる部分だ。この部分のことを『タイ』と呼ぶ」
「『○○したい』にちなんで、『タイ』ですね」
「うむ。そしてもう一つの部分は、『自分のタイを叶えるためには、御社しかない』ということを立証する根拠となる部分だ。
根拠を表す英単語、エビデンスにちなみ、この部分のことを『エビ』と言う」
「なるほど。だからエビですか」
「志望動機には、タイとエビの両方が必要なのだ。タイが無くては、何がしたい学生なのか分からないし、エビが無くては、他の企業でやってくれという話になる。
だから、自分のタイを叶えたければ、必ずエビを併せて示さなくてはならない。つまり――」
「エビでタイを釣る!」
「そう。この考え方が、『エビタイ理論』だ」
「ダジャレですね!」
「では、エビタイ理論に基づいて望動機を作成していこう。ステップ①は、自分のタイを定めることだ。
実は、突き詰めると、面接で学生が語るタイは、5つの型に分類出来る。お前は、この中から自分が一番しっくりくる型を選ぶだけでいいぞ。
さぁ、括目せよ!これが孔明式、タイの5類型だ!」