『理系学生と地域の人々との交流の場を設けよう』そんな理念のもとに立ち上がった"理系バー"を運営しているのは、医学研究科博士課程のリケジョ、アヤカ店長。なぜ彼女は医学の道へ進み、バーを立ち上げたのか。
PROFILE
アヤカ店長
元々は「落ちこぼれ文系女子」だった
-自己紹介をお願いします。
神戸大学大学院医学研究科博士課程医科学専攻2年のアヤカと申します。2017年11月にシェアキッチン※型のバー「理系Barbms」を神戸元町の地で始めて、今はそこの店長をしております。
※シェアキッチン...空き店舗を複数名で間借りして、設備はそのままに色んな形態の(飲食系の)お店をすること。コミュニティスペースとしての役割も果たす。
-文系から理転して医学の道に進んだとお聞きしました。どういう経緯で今の道に至ったのですか?
そうなんです(笑)。高校時代はずっと文系のクラスにいたんですが、そのときは成績もあまり良くなくていわゆる「落ちこぼれ文系女子」だったんですよ。あまりにも勉強していなかったのでこのままだと大学に行けないなと思い、そこから受験を意識して唯一自分の得意科目だった理科だけでも頑張ろうと思って必死に勉強し始めたんです。そうすると相性が良かったのか成績がば一って伸びて(笑)。その結果、大学進学の面談で担任の先生に私立の薬学部を勧められたんです。それが理転のきっかけですね。薬学部でしっかり基礎薬学を学び、今に至ります。
-医学部博士課程に進学したきっかけを教えて下さい。
昔からがんに興味があってがんにまつわる問題を真剣に考えた結果、薬学部に入ってそこから医学の道に進むことを決めました。日本の死因1位で沢山の人ががんで亡くなっていく現状をテレビなどのメディアで耳にする度に、自分の中でがんをなくしたいという想いが日に日に募っていったんです。そして薬学部で抗がん剤の研究をしていつかがんを人類が克服できればいいなと思い、がんの研究者になるために薬学の道に進みました。より臨床に近い薬学研究がしたかったので、博士課程の進学も見据えて神戸大学大学院医学研究科(修士課程)に進学しました。入ったばかりの頃は実験のいろはを覚えるだけで手一杯だったのですが、研究者になりたいという強い思いで必死に実験しました。そうした努力や他の人の協力、サポートのおかげもあって、神戸大学の飛び級制度を利用し通常2年間で行う修士課程を1年で終わらせることが出来ました。
-理系barを始めたきっかけはなんですか?
神戸に来てまだ間もない頃、同期の研究室の教授に提案されたのがきっかけです。「理系学生はどうしても研究室に籠もりきりになってしまい、学内・ラボ内といった偏ったコミュニティー内で学生生活の大半を過ごしてしまう。それではあまりにも残念なので自分たちでお店を営むという経験を通して、地域の入々と交流し社会勉強をしてみるのはどうか」と教授に月類課金制のシェアキッチン『ヒトトバ』を紹介していただきました。シェアキッチンを利用することで、家賃を抑えることができるだけでなく、冷蔵庫や冷凍庫などの設備や調理器具や食器なども備え付けで必要な初期投資が最低限で済んだため、学生でも挑戦することができました。
また、元町商店街は夜になると店がほとんど閉まってシャッター街みたいに開散としており、空き店舗も少なくありません。ここも完々空き店舗だったのですがヒトトバのオーナーさんの取り組みでシェアキッチンとして生まれ変わりました。学生が利用することで地域に活気を与えることができるのではないかといった教授の意図もあったのかもしれません。私たちも少しでも地域が盛り上がればいいなと思って2017年11月から営業しています。
-どんな人がお客さんとして来店されますか?
本当に色んな職種の方が来られます。学生、現役の医療関係者、研究者、地域の方..挙げたらキリがないですね。普段緊迫した医療現場で仕事をしている方々が、ここで他愛のないお話をしに来られることもありますし、学生が来ればいろんな相談に乗ったりもします。学生の子の進路相談や勉強を教えたりもしょっちゅうありますね。もちろん地域の方や医学系以外の方も来られます。そうやって普段の生活ではバラバラなことをやっている色々な職種、業種の人がここに来てマッチングして様々な情報を交換することは、とても面白いし重要なことだと思います。例えば薬学生なら将来の職業は薬剤師を考える人がほとんどだけど、ここに来て同じような経験をした先輩の話を聞いて、別の選択肢もあるっていう事が学べます。こういう生で体感できるコミュニティは大事だなと思っていて、身近に身体の不安や薬のこと、健康についての相談とかって、普段聞ける場がないじゃないですか。それがバーという場所だとラフに、気軽に話すことが出来る。地域の人たちの医療の相談役にもなるし、学生の進路相談もするし、医療系同士のコミュニティにもなる。オールマイティなんです。私はただのボランティアスタッフだし、1人で何も出来ないけど、勉強したことを還元したり、それができる場を提供することで少しでも地域の人の役に立てたらなと思い、日々進化しています。自分が率先して役に立てることの喜びは大きいですね。
-一番やりがいを感じたのは?
今年の春ですね。国家試験のシーズンなんですが、みんな国家試験の直前期にこの場所で必死に勉強していた子が「卒業試験受かりました!これから国家試験がんばります!」ってみんなからLINEが来て、わざわざ連絡してくれるだけでジーンと来ちゃって。国家試験の合格発表の日もみんなから「受かりました!春から薬剤師です!」っていう連絡が来ると、自分のことのように嬉しいし、この活動をやっててよかったなと心底思います。その子たちに対しては自主的にこの場所で3月に卒業式をやりました。「これから頑張ってね、社会で役立つ人になってね」って言いながらすごい感動しちゃって(笑)。みんながここで学んだことを活かして頑張るって言ってくれたときはめっちゃ嬉しかったですね。誰かの役に立っているんだっていうのを強く実感出来ました。
-辛いことは?
本当にあまりないんですけど唯一挙げるならば、私は大阪出身なので、この辺の土地柄に交じる、馴染むのが大変だなと思うことはあります。よそ者が地元の人と深く付き合っていくのはなかなか難しくて...ちょっとでもこの街に交じるために、空いた時間を見つけてはこの近辺のお店に行って色んな方とお話しています。仲良くなろうとする努力は必要だなって。この町で過ごすことは自分のライフワークの一部になっていますね。
-これからどうなりたい?
私も全然わからないんですよね(笑)。新しい仲間が増えて出来ることも増えていくかもしれないし、今できることは今しっかりやろう、次にできそうなことは全てやってみようというスタンスですね。最近ではパティシエ志望の子と共同でプリンを販売したんですが、その子も自分の作ったスイーツを売り出すのはかなり貴重な体験だったし、私達も得るものが大きく、すごくやりがいがありました。これからの具体的な計画とかビジョンは何にも考えてないし、誰かがやってみたいと思うことに一緒に添い遂げられる、実現のお手伝いができれば、それでいいかなって。色んな人を巻き込んで自分たちが地域に貢献出来たらそれで本望です(笑)。
-神大生に一言
仲間を探すには大学が人生で一番適した場所だと思います。大学で色んな経験をして、色んな勉強をして、色んな人と知り合って、そして同じ志を持った人を見つけて、いろんな活動にチャレンジしてほしいです。
医療者、普段から看護師、研究者として働いている、身近に医療に携わっている方がお客さんとして遊びに来る、現役の博士学生がカウンター内にいるバーというのは日本中探してもここしかないと思います。これを読んで興味を少しでも持ってくれた人は是非来てほしいです。待ってます!
-編集後記
笑顔がチャーミングでとても素敵な方でした。理系の方はもちろん、文系の方にとっても面白い話が色々聞けるなど新しい出会いもあるので、みなさん是非理系バーにふらっと立ち寄ってみましょう!スイーツ美味しかったです(笑)。