2016年、夏。4日間限定でオープンした幻の定食屋、“よしおカフェ”。「忙しい大学生に健康的な食事を」と語る店長の吉岡さんが本当に作りたかったのは、単なる健康食カフェではなかった。「みんなと楽しく過ごしたい」彼女が目指すものとは。
PROFILE
吉岡詩織
玉ねぎ15個をみじん切り…あれが一番しんどかった(笑)
-まず、“よしおカフェ”について教えてください。
“よしおカフェ”は『大学生に健康な料理を提供する』をコンセプトに、7月25,26日と8月1,2日の合計4日間限定で営業した定食屋さんです。私の名前が吉岡で、あだ名が“よしお”だから“よしおカフェ”という名前をつけたけど、カフェというよりは定食屋さん。場所は、夜カフェnotte*を当時店長だったTakiくんが良心的なお値段で使わせてくれました(笑)
店長の私と、運営メンバー4人、当日のホールスタッフ約10人という体制で営業していました。運営メンバーの中でも二種類に担当が分かれていて、一つは店内装飾やBGMといった詳細を考えたり、お客さんに渡すためのレシピや栄養価について書かれた紙を作成してくれた2人。この2人は元から食に興味を持っていたサークルの後輩です。あと2人が広報を担当するメンバーで、それぞれ別のサークルで広報を学んでいる先輩と同期に手伝ってもらいました。
夜カフェnotte*...神大生が経営していた、開店時間が20時〜26時という夜営業のカフェ。2016年8月上旬まで六甲道商店街で営業していた。
-いやらしい話(笑)、集客・売上などはどうでした?
赤字回避のためにはどれだけの集客が必要か計算して、1日40人のお客さんに来店してもらうことを目標に設定していたんです。営業1日目は目標達成できたんですが、2日目が達成できず…。3,4日目の営業まで1週間、反省をして予約がどうやったら増えるかを考えていました。
結局、最終日にお客さんがいっぱい来てくれたので総数としては目標達成できたし、予想以上でした。40人×4日で、少なくとも延べ160人以上の方に来店してもらえたってことですね。細かい数字は忘れちゃったけど、最終的に5万円の利益が出たのは良い思い出です。
-5万円も利益が出たのは驚きですね。大変だったことはありましたか?
運営的な面では、当日小銭を作ってないことに気付いたり、営業中にお米を炊くのが間に合わなかったりなど様々なアクシデントがありました。スタッフ達のおかげで助かりましたが、どれも事前にきちんと計算してなかったから起きたことで、リスク管理不足を痛感しましたね。
あとは、朝からの仕込みがひとりぼっちで寂しかったです。キッチンが1人っていう前提の中、素早い提供を意識していたので重要な仕事でした。一度、ハンバーグのために玉ねぎ15個ぐらいをみじん切りにしたんですけど…あれは、なんだかんだ一番しんどかった(笑)
集客の面では、予約がなかなか埋まらなくて苦労しました。よしおカフェを知った人が「面白そう」と思っても、わざわざお金を払ってテスト期間に来店してくれるかというと、難しいところでした。その時も運営メンバーがラーコモで話しかけて予約を取るために営業をしてくれて。1人では絶対できないことだし、感動しましたね。
他にも色々な苦労があって、飲食店を経営するのは大変だと実感しました。とてもじゃないけど、職にはできないなあと。
-そもそも料理にはまったきっかけや、“よしおカフェ”を開こうと思ったきっかけは何だったんでしょう?
料理自体はお母さんの影響が大きいですね。お母さんの料理は美味しいし、栄養バランスもいいし、彩りも綺麗だし、すごいなって思っていました。作っている姿を昔から見ていて楽しいのを知っていたし、好きだった。お手伝いしたことはなかったですが(笑)
大学に入って一人暮らしを始めてから、ちらほら自分でも料理をするようになりました。初めの方はめちゃくちゃ好きって訳でもなかったんですけど、2年生の冬頃に栄養バランスや彩りにだんだんとこだわり始めてから、楽しいと思うようになりましたね。
3年生になってから、ある日友達を家に呼んでご飯を作ったことがあって、その時に「めっちゃ楽しい」って思ったんですよね。自分の作った料理を食べた人が感動して、それを共有して、っていう場がいいなと思って。そこから色んな人を家に呼ぶようになったんです。「うちでご飯作って待ってるから、食べながら話そうよ」って誘っていました。
そうして作った料理を、誘った人の名前と併せて毎回Instagramに投稿していたんです。すると、その投稿を見た仲の良い先輩と同期に、「最近料理すごいじゃん、俺たちにも食べさせてよ」って言われて、気合いを入れてコースを作ったんです。遊び半分だったけど、お品書きも作って“料亭 よしおか”みたいにして。そしたら先輩が「お店やれば良いじゃん。もっと色んな人に食べてもらったら?」ってパッと言ったんですよ。本当にその一言でした。“よしおカフェ”が始まったのは何か明確な目的があった訳じゃなくて、そう言われて「あ、いいかも」って思ってしまったから。実はその時の先輩と同期が、さっき話した広報に携わってくれた2人なんです。
今振り返ればそれが6月21日。夜カフェの閉店時期の問題もあって、“よしおカフェ”の開店まで1ヶ月ちょいしかなかった。その期間は駆け抜けましたね。
-どちらも、誰かに食べてもらった時の反応から始まっているんですね。コンセプトでもある『大学生に健康的な料理を』という想いはどこから?
大学生って忙しいからご飯は適当に済ませちゃうことが多くて、毎日よしおカフェで出してたような食事をしている人って少ないと思うんです。うちに来てご飯食べてくれた人は、みんな「懐かしい」とか「健康になった気分」って感動してくれます。でもそれで感動できるぐらい普段の食生活が不健康なんじゃないかなって。
例えばお母さんとか、誰かが健康を考えて作ってくれたご飯って、愛だと思うんです。そういうものをみんなと囲んで食べるっていうことが幸せなんですよね。そうすることって難しそうに感じるけど、私みたいな忙しい大学生にもできるんだよってことを伝えたかったのも、よしおカフェを開いた理由の一つとしてあります。私はオリジナルのレシピを自分でめちゃめちゃ考えている訳ではないし、時間かければ誰でもできることなんです。
-確かに、時間をかけてでも愛のこもったご飯をみんなで食べることに意味がある気がします。これからの活動は何か考えていらっしゃるのでしょうか?
よしおカフェをやったのは、私が料理好きで、大学生に健康なご飯を楽しく食べてほしいなっていう想いがあったからなんです。でも、実際にやってみて気付いたのは、『ご飯を人に作ってあげる』ということよりも、そうすることで生まれる『空間』が好きなんだということ。よしおカフェには大学生ばかりが集まって、友達もいたし知らない人もいたけど、そこには自由な空間が広がってたんです。誰かが突然歌い出したり、ギターを弾き出したり、知らない人同士が繋がったり、私自身も来てくれた人と話したり。そういう笑顔の空間が好きだと気付いたし、それを作れるってことが素敵だと思いました。作るための手段が、たまたま私にとっては料理だったって感じですね。だから次は料理だけじゃなくて、音楽や芸術も絡めたい。私にとっての料理みたいな、色んな人の強みが混ざった、みんなが楽しく過ごせる空間を作れたらなあと思っています。
そう考えるようになったのは自分にとって大きな変化だったし、やってみて初めてわかったことでした。少しの興味からでも、やってみることって大事だなと思いましたね。
今も早く新しい事をやりたくてうずうずしています。冬ぐらいにはできるかなという感じですね。言った以上はやる(笑)
-『空間』のお話は、よく大学生同士がゆっくり話す機会として一緒にご飯を食べることなんかにも関係があるのかもしれませんね。新たな取り組みも楽しみです!
それでは最後に、神大生へ一言お願いします。
よしおカフェを通して学んだことを、大きく二つに分けて話します。
まず一つ目は、よしおカフェができたのは私がすごいからじゃなくて、仲間がいたからだということ。「お店開きました」って言うとなんとなく立派に見えるし、このインタビューでも偉そうに話してきたけど、さっき話したように料理は誰でもできるし本当は私がすごいわけじゃない。お店を開くっていう難しいことができたのも、きっかけを与えてくれたり、一緒になって進めてくれた仲間のおかげなんです。それはなにも今回に限った話ではないし、私は感謝の気持ちを大切にできる人でいたいという想いをずっと抱いています。人生持つべきものは、仲間と感謝の気持ちです。
二つ目は、少しでも興味がある事はパッとやってみることが大事だということ。これが私の強みでもあるし、裏を返せば十分な検討なしにやってしまうという弱みでもある。けれど、とにかくやってみることで新しい気づきがあるはずだし、迷いすぎるよりは行動した方が良いと思っています。
そう思えるのは元々の性格だったり、置かれている環境や周りの人達に受けた刺激だったり、理由は色々あります。でもやっぱりその中で一番大きいのは、4年間しかない大学生活を大事にしたいという想いです。社会人になってしまうと自由な時間がないし、そもそも仕事って就活で決めたものにコミットし続けないといけない。じゃあそれまでの間、大学4年間のうちに十分な経験をして、自分の視野や挑戦の幅を広げておかないと、それからの人生でずっと後悔すると思うんですよね。こういった考え方のおかげで、何かしらの機会が訪れた時に踏み出すハードルは下がりました。
それでも今回、よしおカフェへ背中を押してくれたのは仲間の「やってみたらいいじゃん」の一言で、やっぱり支えてくれる仲間は必要なんだと思います。そのためには自分から仲間を作ることも大事。私はコミュニケーション力と愛嬌で人を巻き込んで、手を繋いでみんなで頑張ろうっていうタイプです。愛があれば何でもできる、みたいな感じですね(笑)