真剣な表情で、ときには明るい笑顔を交えながら自身の教育観について話してくださった奥山さん。「自分が幸せでなければ他人を幸せにすることはできない。」この言葉に込められた、塾講師のバイトをしている学生たちへのメッセージとは。
PROFILE
奥山慎介
彼を動かしたのは、教育へのアツい想い。
-塾講師になったきっかけは何ですか?
僕、教育が好きだったんですよね。だから学校の先生になりたいと思っていたんですけど、先生になるためにまずは自分が苦手な勉強に取り組もうと思って塾に通い始めました。しばらく塾に通ううちに、自分がしたい教育は塾講師としての教育にあると感じ、今の道を選びました。
-自分がしたい教育というのは具体的にどういった教育ですか?
世間一般には、学校じゃ言ってはいけないキーワードとか、学校の先生とはこうあるべきみたいな考えとかがけっこうあるんですよね。それはいいことでもあるんですけど、自分の中では、もっと子供たちの中に深く入り込んで彼ら自身の想いや希望を尊重した教育をするために、本気で対話していきたいっていう思いがあって。だから子供たちに一番響かせたい言葉を伝えるためなら、大人として言ってはいけない言葉であっても、僕は全然言います。それが僕の目指す教育のかたちですから。
-塾講師になるまでの経緯を教えてください。
学生時代は部活動に一生懸命取り組んでいたんですけど、塾講師になるためにしていたことは一切ないです。実は僕が最初になった職業はウエディングプランナーだったんですよ。
-ウエディングプランナーをやっていて、そこから塾講師に?
そうです。ウエディングプランナーから塾講師に転職したんですよ。最初から話すと、学生時代の就職活動ではアパレル会社を受けていたんです。当時は部活でやっていたバスケットボールのことしか考えてなかったので、将来のこととかは全く考えずにただ服が好きだからっていう単純な理由で受けていました。で、アパレル会社からの内定を3つくらいもらって、現実的にアパレルの仕事を考えたときに、「あ、自分服売るの好きちゃうわ」と思って。そのことがきっかけで自分のことを考え出したんですよね。自分は人を楽しませたり、笑わせたりするのが好きだから、じゃあその最高の笑顔を作り出すためにはどうしたらいいんかなって考えたときにウエディングやなと。それでウエディングプランナーになったんですよ。でもウエディングプランナーの仕事と並行してバスケットボールチームの監督も務めていたこともあって、教育に携わる仕事への想いが消えず、最終的には塾講師になる道を選びました。
-塾講師に転職するにあたって、特別に何かしたことはありますか?
占い屋を回ったことくらいですかね。教育って言っても、子供に対するものだったり、大人を教育する人事部だったりいろいろな教育があるじゃないですか。で、どんな教育にするか決めたくて、占い屋に行ったんですよ、占いアタールっていうお店に。そのお店でここがいいですよって言われたからここにしたんですよ。つまり特別にしたことは何もありません(笑)
-では学生を教育することに限らず教育そのものに興味があったということですか?
その通りです。全般的に今もまだ興味があるんですけど、やっぱり子供の方が好きかなと思いますね。
-現在塾講師をなさっていて、やりがいを感じること、逆にしんどいと感じることは何ですか?
しんどいことは夜が遅いことくらいですかね。やりがいを感じるのは、綺麗事って言われるかもしれませんけど、やっぱり子供の成長ですね。勉強が苦手な子や、学校で成績が低いと非難されている子たちが塾にはたくさん来るんです。その生徒の中には、非難されて自信をなくしたせいで、自己肯定感が全然ない子たちが非常に多いんですよね。その低下した自己肯定感を高めてあげることによって、本当に子供たちの可能性が広がるんですよ。だからうちの塾は、周りから「無理だ、志望校には行けない」って言われてきた子たちを絶対に合格させてやろうぜっていう目標を設定していて、その目標を達成できたときは最高に楽しいです。そのために一生懸命頑張っています。
-指導するときに心がけていることは何ですか?
指導するときには絶対“アツく”っていうのを心がけています。僕、子供たちの前ですんごい“演じる”んですよ。
-演じる?
今は校舎が6個あるので担当社員とかに任せている教室もあるんですけど、そういう教室にもたまに顔を出すんです。そのとき、にぎやかな生徒がたくさんいる場合があるんですよね。そういうときは僕ね、あえてあんまり盛り上げないんですよ。空気をピリッとさせるんです。お前らなんかしたらわかってるな?みたいな感じの空気を出して。だけど、逆におとなしい感じの教室に行ったときには楽しませることを意識して、怖い空気なんて一切出さずに楽しくしゃべるんです。こういうふうに演じ分けることもあるのですが、基本的には、子供たちと接するときは楽しむこと、そしてアツく接することを重視しています。たとえどんなにしんどいことがあったり睡眠不足だったりしても辛そうな姿は絶対に見せません。実は僕、すごく根暗なんですよ。でもそうは見えないでしょ?もちろん今も演じてます(笑)
-生徒にやる気を出させるときに奥山さんがすることは何ですか?
僕は幼稚園児から高校生までの生徒を持っているんですけど、どの年齢の子に対しても絶対にプラスの言葉をかけてあげることです。例えば、「お前これやらんからったら絶対点数下がるぞ。わかってるな?」って声かけるよりも、「この課題やったら絶対成績あがるねんから一緒に頑張ろうぜ!」って声かける方が絶対いいじゃないですか。そういうプラスの言葉をかけることを常に意識してます。
-どういう学生を雇いたいですか?
明るく元気な子。それだけです。
-指導力よりも?
だって指導力ってあとから鍛えられるじゃないですか。性格を明るく元気にしてくださいっていう方が難しいと思うんです。だから明るく元気な子が一番ですね。そもそも指導力って、わかりやすく教える力というよりは、生徒の成績を一緒になって上げる力だと思うんですよね。じゃあ成績を上げるためにどうしたらいいのかって考えると、生徒の勉強に対する姿勢を変えてあげればいいんだって気づくんです。じゃあその姿勢を変えてあげるためにはどうしたらいいのかなっていうところまで考えていけば、絶対その子に対するベストな指導が見つかるんです。そうやって生徒の成績を上げられれば指導力が身についたってことだと思います。だから指導力を身につける上で、生徒と明るく元気にコミュニケーションをとることは必須なんです。
-塾講師のバイトをしている神大生に何かアドバイスをお願いします。
自分の幸せを考えてほしいです。よくバイト講師の子が、「生徒のために」っていう言葉を使ってくれるんですけど、僕の考えとしては、自分が幸せじゃないと他人を幸せにすることはできないと思うんですよ。講師の子たちは生徒のことを想って何か行動に移していると思うんですけど、自分がこうしてもらったら幸せだなっていう基準がないと、相手を幸せにしてあげることは難しいと思うんです。そういう基準を持たないで何も考えずに授業するっていうのが実は1番まずいと思うんですよね。だから、自分がしてもらって嬉しいと思うことを生徒にしてあげて、そうじゃないことは生徒にもしないっていうのを徹底してほしいなと思いますね。
-奥山さんが大学時代にやって良かったなと思うこと、逆にやらなくて後悔したことはありますか?
部活動をやっていてよかったなと。部活動を通して人間関係や目標達成の過程の大切さを学べたので、この経験は社会人になってからも役立つことが多かったです。あとは、今の自分は負けん気がすごく強いんですけど、そういった根性とかもついたので非常によかったなと思います。やりたかったことは2つあるんですけど、1つは海外留学です。卒業旅行でいろんな国に行ったんですけど、そのときに文化の違いとかにすごく衝撃を受けて。でももっといろんな価値観を知りたいなって思ったまま、それ以降海外に行くことなく社会人になってしまったんですよね。もう海外に行く時間をとるのが難しくなってしまったので、ほんまに行っておけばよかったなって後悔してます。あとはパソコンを使えるようになっておけばよかったなって思います。アプリ開発とかの技術を身につけたかったですね。今の高校生とかにはそういった道が大きく開けてるじゃないですか。それがすごく羨ましいんですよね。この2点をめっちゃ後悔しています。
-パソコンに興味があったとおっしゃいましたが、奥山さんは理系選択ですか?
ゴリゴリの文系です。そもそもお恥ずかしい話、文系理系については考えたこともなかったです。もうバスケットボールをやるためにここの大学に進学するって決めていたんで。将来したいこととか一切考えてなかったですね。ずっとバスケットボールのことだけを考えていました。
-奥山さんのように何か一つのことをずっとやり続ける人ってすごいなと思います。
僕は辞める度胸がなかっただけです。辞めるって難しいじゃないですか。だから違う道を選ぶことの方が、僕はすごいことだなと思います。
-やっぱり褒め上手ですね。
僕は常にプラスの言葉をかけ続けますから(笑)
-最後に、神大生に一言お願いします。
じゃあ本当に一言で。人生に悩んだらファイト学習会へ来てください。
-編集後記
今回のインタビューで最も印象に残ったのは、奥山さんの「演じる」という言葉です。どんなにつらくしんどいときでも、自らの労力・努力をひけらかすことなく、自分の役割を全うする。わかっていてもなかなかできないこの行為を体現している奥山さんは、本当に素敵な方でした。奥山さんのような素敵な人になるための第一歩は、きっとプラスの言葉をたくさん発すること。明日から、いや今日からでも、実践していきたいものです。