ボランティア、震災、熊本。ほとんどの人が、それらと関係せず生きているでしょう。彼が活動で大事にすること、体験したこと、気づいたこと。彼のような人を、どこか遠くに感じているあなたにこそ、知ってほしいことがあります。
PROFILE
稲葉滉星
人と人として、向き合いたい。
-代表をつとめる稲葉さんは、東日本大震災のボランティアもされていましたが、熊本との関係はほとんどなかったそうです。
他のボランティア団体もあるなか、ご自身で団体を立ち上げた経緯を教えて下さい。
最初は、東北の支援をしていながらも熊本のことは他人事だったんです。この活動を始めたのは、被災地出身の知り合いの影響が大きいです。知らない土地の人が「友達の友達」にまで近づいたことで初めて、熊本に興味を持ちました。彼女を見ていて、地元出身者は現地にいる知り合いのことが不安だろうし、何かしたいと思っているだろう、と感じたんです。また、ゴールデンウィークに個人で現地に行った際にまだやれることがあると実感したこともあり、九州出身の人に呼びかけて団体をつくることに至りました。神大生が動きたい時にすぐ動ける形をとりたいと思ったので、他の団体に参加することは考えなかったですね。
-これまでに団体として3度派遣に行かれていますが、現地ではどのような活動をなさいましたか。
一回目の派遣は何も持たずに飛び込んで、地元広報誌を配布するお手伝いをしました。各家庭を回る際に、住民の方とお話しする機会も多くありました。田舎って、隣の人に話すと村中に筒抜けみたいなところがあるからか、外から来ただけの僕らには気軽に話せることも多いようで。最初は「こんなことがあってな…」と現状を教えてもらうところから、だんだん愚痴や不安をこぼしてくれるようになりました。
二回目は農業のお手伝いをしたんですが、正直なところ、初めは気が進まなかったんですよ。農業の人手不足は全国にあるのに、なぜ、わざわざ被災地で手伝いをしてるんだろうって。でも、僕らが開くイベントなどに農作業が忙しくて参加できずなかなか関わりを持てない方と、会話する機会にもなっていると気づいたんです。このように現地の方とコミュニケーションの取れる活動は三回目でも引き続き行い、人と人として向き合うことを心掛けています。被災地でボランティアするとなると、して”あげる”という形になりやすいのが嫌だと思っていて。”してあげる”だけじゃなくて、例えば農家の方に野菜をいただくみたいに、”してもらう”ことも大切に、対等な関係をつくっていきたいですね。
-現地では仮設住宅での足湯や演奏会など、様々な活動をされていますが、どのように内容を決めているのでしょうか。
先ほどのお話しから、心のケアに注目しているように感じたのですが。
仮設住宅ではお隣が全く知らない人になることもあり、新しく近所付合いを始めなければなりません。僕らの活動は、そんな課題へのアプローチのひとつです。例えば足湯に集まることでお隣同士を知る、コミュニティができる、自立的にコミュニティ活動が興るという新しい流れを作っています。また演奏会では、仮設住宅に知り合いのいなかったおばあちゃんが、演奏を聴きながら隣に座った人と話すなど、新たな交流の場になっています。活動をきっかけに、僕らが去った後もコミュニティはちょっとずつできていくかもしれない、そんなことを思いながら活動内容は自分たちで考えています。けれども活動に対する反応は人それぞれ。出来ないことは当然あるし、限られていることばかりです。しかしその中で、自分たちに出来ることを、少しずつやっていこうと思っています。
団体の理念として「個人に寄り添う」ことを大事にしているのですが、学生ができることってそのくらいだと思うんです。人それぞれの寄り添い方があると思いますが、僕はそこにいた人が心地良いかということを一番大事にしていますね。まちの状態は回復する一方ですが、メンタル面では、悪くなる人・良くなる人とで分かれます。どの人にもちゃんと目を向け、寄り添っていきたいですね。