No.64

ただ、登りたいから登っている

松村健司 井部良太

(山岳部)

Presented by Honoka Kuwahara

Photo by NoName


2015年秋、ある神大生2人が”人類未踏の地”に到達した。
昨年創部100周年の節目を迎えた、神戸大学山岳部の100年目の挑戦とは。
そして「未知への挑戦」を掲げる山岳部が、未踏の地にかけた想いとは。

PROFILE

松村健司 井部良太

怖さを覚悟した先にある世界

-この登山をすることになった経緯を教えてください。


〈松村 以下松〉山岳部は昨年で創部100年なんですけど、100周年事業のひとつとしてチベットの未踏峰に登ろうっていう話を山岳会(OB会)としていました。チベットやネパールにはまだまだ未踏峰の山があります。山岳部は1980年代からチベットの山に登ってきたので、僕が1回生の時にはもうチベットに未踏峰の山に登るっていう話は出始めてて。そうして立ち上がった海外遠征の計画に、僕と井部が行きたいって名乗り出たんです。

-登る前、どんな気持ちでしたか?


〈井部 以下井〉日本にいたときはわくわくしてました。
〈松〉チベットの未踏峰って誰も行ったことがない場所が多くて,山の地図がない場合が多いんです。だから僕らも、登山者が撮った写真や、Google Earth、ASTERといった地形データサービスを使って、どこが高いなどのデータを分析して、今回僕達が行ったBada Riエリアに狙いを定めました。山岳部のモットーが「未知への挑戦」で、それを掲げて、長い間地道に分析をやってきたので、ようやく未開の地に切り込んでいくことが楽しみでしたね。

-どういったことを調べるんですか?


〈井〉未踏峰に登った人がいろんな山岳雑誌に投稿したり、ネットで情報をあげたりしているので、それを片っ端から全部調べて、自分たちの地図に、未踏峰か既踏峰かをチェックしていくんです。
〈松〉また、Google Earthに載っている標高データの精度が必ずしも高いわけではないので、色々な角度から調べます。その分析に3,4年かかったりするんです。語弊があるかもしれませんが、山岳部って文化部みたいな一面もあります。僕は紀行誌などの本も結構読みますね。
〈井〉古い記憶を探すために、古本を読み漁ることも。
〈松〉海外登山って、そうやって山に入るまでが大変なんです。OBは「海外登山は出発したらこっちのもの」っていうのをよく言っています。チベット自治区に入るには、中国に滞在するために必要なビザとは別に、入域許可が必要なんです。事実上の2重ビザですね。調査だけではなく、チベットに入るのも大変でした。

-怖いという気持ちはないんですか?


〈松〉井部も3年登ってるし、僕も4年登ってるから、もう慣れましたね。
〈井〉怖いんですけど事前に計画を詰めていればある程度怖さの想像がつくんです。
〈松〉山では,人の死に直面することもあります。登山ってそういう世界なんです。怖いのは当たり前なんですけど、覚悟をして行っています。怖さの先には、美しい世界や楽しい世界が待っています。それにしっかりと技術をつけて、プランニングをすれば,登山中のリスクはほとんど避けられるんです。「慣れ」が事故を招くので、常に「怖い」という意識は大切にしています。
〈井〉でも、チベットに着いてからは、怖いって思ったことはほとんどないですね。それも計画の時に様々な「怖い」要素を予想していたからだと思います。
〈松〉飯あたるんじゃないかな、とか山に登ることとは別のことを心配してました(笑)

-Bada Ri(※1)の登頂の断念を決めたときの想いを教えてください。


〈井〉やはり悔しかったです。TaRi(※2)からBada Riはつながってて、途中まで登ったんですけど、ルートは危険でした。細い稜線上に人ぐらいの大きさがある岩がゴロゴロ積み重なってて、露出してるんです。氷なり雪がついてるともうちょっと登りやすいんですけどね。岩に乗るとぐらっと動いて、下手したらそのまま岩と一緒に2,300m落ちていっちゃうような状況だったので、これは無理だなと思って断念しました。高低差であと150mぐらい登れば頂上だったので悔しかったですね。

-Bada Ri、リベンジしたいですか?


〈松〉岩に雪が被ってないと登るのは厳しそうだったので、リベンジできないんじゃないかな。〈井〉別のルートで行くか、時期を変えるか、ですね。
〈松〉いっぱい調べてこの道を選んだから、時期とルートを考えるとリベンジは厳しいかなと思っています。
〈井〉またBada Riに行きたいかと聞かれると、そうじゃないですね。どうせならいろんな未開の地域を登ってみたいです。

-未踏峰の登頂が叶った時、どう感じましたか?


〈井〉当初の目標はBada Riだったので、達成感はなかったですね。
〈松〉今回の登山の何がすごいのかっていうと「この時代にチベットの山に登った」ということなんです。政治的なことで問題が多いところだから、観光でも自由には入れない。去年1年間でチベットで唯一1隊、我々だけが登山許可が降りて登山をしたということが大きいですね。
〈井〉中国は人と人とのつながりをすごく大事にする国で、何十年間も中国の大学の人と一緒に登ってきてるから今回もチベットで登れたんじゃないかなって思います。


木村将徳

(神戸大学体育会軟式野球部 主将)

みんなに楽しく野球をしてもらいたい


朴徹雄(パクチョルン)

(ゲストハウス萬家オーナー)

文化を越えた繋がりを築く


宮下奨平

(アプリ開発者)

周りに流されず、自分で決める覚悟が夢を叶える


福田 茜

(KooBee2015代表)

しんどくても、頑張ったら一番楽しいものになる。それが根底にないと面白くない


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