No.63

古本屋をやりたいと、ずっと思っていました

尾内 純

(古本とジャズ『口笛文庫』 店主)

Presented by Tomohiro Yamaguchi

Photo by Ririki nakabayashi


六甲口から少し登ったところ。
たくさんの本が店先に並ぶ、古本とジャズのお店「口笛文庫」。
その店主、尾内純さんは神戸大学国際文化学部の出身。
彼が28歳で開いたこの古本屋は、来年で12年目。
学生時代から貫き続けた、古本屋店主の、情熱。

PROFILE

尾内 純

10年ぐらいじゃまだまだで赤子同然

-お店には溢れそうなほど本がありますよね。これだけたくさんの本をどこから見つけたり仕入れたりしているのですか?またどんな本が多いですか?


大きく分けると、お客さんから買うか業者の市で買うかですが、うちの場合はほとんどお客さんが売ってくれた本で構成されています。お客さんの持ち込みの他には、古い家を壊して建て直すから、おじいちゃんが亡くなって処分したいからということで入ってくることが多いですね。
このように近隣の住民の方の本が雑多に入ってきます。だから置いてる本のジャンルは幅広くて、子供向けの本からアカデミックな哲学の本まで何でもあります。
“町”の古本屋というのはそういうものなんです。来年で12年目なんですけど、町の古本屋という本を売ったり買ったりする場所として一応の機能を果たして、町から必要とされているのかなと思います。

-「古本とジャズ」のお店ということですが、尾内さんが古本やジャズに興味を持たれたきっかけや影響は何だったのですか?


具体的に誰の影響なのか、何の影響なのかは分からないのですが、やっぱり子供のときから本を読むのが好きだったということが1つあります。なぜ“古本”なのかというと、これは単純に“安いから”です。最初古本を買い始めたのはそういうことだったと思いますね。
音楽の方は、元々ビートルズがすごく好きで、その系統とその周辺、それからそのルーツとなる音楽を聞いているうちになんとなくジャズに突き当たったという感じです。実は「古本とジャズ」というフレーズは、『植草甚一』っていう、古本屋を巡るのもジャズも好きだったという、明治生まれの伝説的なおじいさんの「古本とジャズ」という本からいただいているんです。
だから、フレーズは「古本とジャズ」ですが、ジャズばっかりじゃなくてビートルズなどのロック、フォークやソウルミュージック、ブルースも非常に好きです。

-ここのお店の名前である「口笛文庫」も音楽に関係しているのですか?


はい、そうです。古本屋の前に音楽関係の仕事をしていたので、その影響もありますね。 二十年以上前、僕が古本屋巡りしてた時って、古本屋というのは怖いおやじがいて、入ったらじろりとにらまれる、そういう空間だったんですね。今でもそういった店はごくごくたまにありますけど、もうちょっと堅くなくて入りやすい雰囲気が欲しかったという意味でこの名前にしました。

-古本やレコードだけでなく、古い雑誌やはがきといった「紙もの」もたくさん置いていらっしゃいますよね。そこにもやはり尾内さんのこだわりがあるのですか?


古い物は好きです。
特に明治から昭和の初期までの間は時代として好きですね。 “本”というのは残りやすいんですよ。本の形をしていているので、本棚に何年も、何十年も収蔵されっぱなしになります。それに比べて雑誌やチラシ、はがきの類の「紙もの」は、それが流通していた時代ではあまり価値のないものとされてしまうので、すぐに処分されてしまって残ることがあまりありません。だから今、それに興味があって欲しいなって思っても随分探しづらいんです。だから古い「紙もの」というのは好きだし、店にも並べるようにしています。

-この本には価値があって、この本には価値がほとんどないといった知識は、古本屋をやって続けてやっていくなかで身につけてこられたのですか?


そうですね。古本屋をやる上で知識はすごく大事なんですけど、知識を身につけるために必要なのはやっぱり、一つは勉強、一つは経験です。結局どれだけ本を触ってるかが自分の経験値になります。僕の店なんかはたくさん本が入ってくるので、非常に勉強になります。ここ10年で随分勉強したなっていう感じですね。でも古本屋の仕事にはゴールがなくて、どこまでいっても勉強、勉強です。読んだことがない、見たことがない本というのは当然あるわけだし、本を探せばそれこそ何百年も遡れるので、非常に奥の深い仕事です。どんな仕事でもそうだとは思いますけど、古本屋の場合は知識がお客さんの信頼につながるので、毎日勉強していくことは非常に大事だと思います。
10年ぐらいじゃまだまだで赤子同然のレベルなので、毎日勉強しながらやっています。

-本への愛情がないと続けられない仕事ですよね。


そうですね。まあ、でも愛情がありすぎると多分本を手放したくなくなることがあると思うので、どう言ったらいいか分からないですが、とにかく“本屋をやってること”は好きですね(笑)


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