No.132

求められるままに、流されるままに

斉藤善久

(神戸大学国際協力研究科 准教授)

Presented by Ayano Yasuda, Yu Nakayashiki

Photo by Sarina Yoshida


ベトナムから技能実習生として日本に来ている方々を劣悪な労働環境から救い出し、その制度の様々な問題を浮き彫りにしている、斉藤善久先生。その研究にたどり着いた経緯やきっかけ、研究する上で大事にしていることなどについて語って頂きました。

PROFILE

斉藤善久

技能実習制度との長い闘い

-先生の研究内容・専門分野を教えてください。


日本の労働法を専門にし、その比較対象としてベトナム労働法を研究しています。もともとは、ベトナムにある日系企業のベトナム人労働者を守るために研究をしていました。しかし、最近はベトナム人労働者が日本に来るようになってきたので、フィールドが日本に移ってきて、研究対象である2国の労働法の専門分野が混ざりつつあります。劣悪な環境で働かされているベトナム人技能実習生からSOSが出た際には、実際に彼らの職場に行って彼らをなんとか助けて、それを元に論文などを書いたり、メディアで訴えかけたりしています。

-現在の研究活動をするようになった経緯を教えてください。


大学の長期在外研究制度を利用して、45歳の時にベトナムで1年暮らしました。そこで、ボランティアで日本語講師をして、多くのベトナム人と知り合いました。日本に帰ってから彼らに連絡を取ると、日本に働きに来たものの劣悪な環境で働かされている現状を知って、「教え子に何してくれてんねん」と、その会社に電話することがあったんです。そうやって解決していると、口コミで広がるようになって、いろいろな人から相談を受けるようになったんです。そのような活動をもとに論文を書くと、国会に意見参考人として呼ばれて、その結果、顔が売れてテレビなどにたくさん出るようになりました。顔が出てしまったら仕方がないから居直って、メディアを使って、会社や行政に圧力をかけていこうと動き出しているところですね(笑)

-具体的にはどんな活動をされてきたのですか?


奈良県で未払いの残業代を取り返したいと言う技能実習生がいて、でも実習期間の途中で会社に文句を言って帰国させられたら困るので帰る間際に交渉をしたことがあったんです。給料の支払いの現場をカメラで押さえるために、スマホが禁止だったからテレビ局に借りて眼鏡型カメラを使ったんですよ。結果的に払ってもらえたんですけど、こういうのって法律的な手続きを踏んでちゃんとやるとすごく厳しいし、時間がかかるので少し強引なくらいの方がいいのかもしれません。他にも、徳島にいる技能実習生から給料の未払いや劣悪な労働環境についてのSOSが来て、その子の唯一の休みだった正月に会いに行ったんですが、社長に見つかって、社長にとって都合の悪いことを外部に出さないために外出許可を出してくれず、その技能実習生が予定していた待ち合わせ場所に来れなくなってしまったんです。けれど僕はせっかく徳島まで来たからとその子のいる工場まで行ったんですね。扉が閉まっていたんですけど、正月だしなんとなく「おめでとうございます」って言いながら開けてみたんです。相手も僕が誰かよく分かっていなかったんだけれど、「失礼します」と言いながら入って、名乗ったらやっと相手も僕が何者か気づいて、給料や労働環境の改善に関して話し合ったっていうこともありましたね(笑)

-現在の外国人技能実習制度の問題はどういうところにあるとお考えですか?


技能実習制度の怖い所は、給料が未払いだったり、劣悪な環境で働かされていたりしても、何も言えずに泣き寝入りしなければならい部分です。なぜなら、彼らはその会社でしか働けないので、会社が潰れたら借金を返せなくなるからです。しかし、借金は問題のうちの1つの要素でしかなく、1番の根本的な問題は、制度上、仕事を変えることができないことだと考えています。今就いている仕事をやめるということは日本での在留資格がなくなるということなので、自分の国に帰らなければならなくなります。けれど借金があるのでそれは不可能なわけです。さらに厄介なことに、職種とする作業も決まっているから、転職も難しいんですね。技能実習制度が移民政策ではなく国際貢献であるという建前だからこういった決まりがあるんですが、本当はこんな制度必要ないんです。

-このような現状をどう改善していくべきだとお考えですか?


技能実習制度というのは本来、お金があって余力があるから、日本のノウハウを教えようというもので、性善説で成り立っているんですよ。そのために、善意から来るものだから悪いことは起こらないという前提にあって、監督機関が手薄なんです。だからまずは、監督機関をしっかりさせるために、たくさんの問題が起きていることを知らせなければならないと考えています。そしてそれに応じた行動を促さなくてはなりません。その方法の1つとして、メディアはとても効果があります。行政は、問題があることを知らせてから8ヶ月何もしなかったのに、テレビでそのことについて放送された翌々日には動いたんですよ。行政の行動を促す時に大切なのは、正しい前例を作っていかなければならないということです。その時に中途半端なものじゃなくて、徹底的に外国人技能実習生を保護するような前例を作るようにしなければ意味が無いですよね。そういう前例を作るためには、まずはなにか行動しなくてはいけません。そこで肝心なのは、少人数ではなく大人数ですることです。その行動が当たり前になれば、周りが変わってくる。その行動に賛同する人が多いほど、それが当たり前になっていくんです。この点でメディアというのは力を持っているんですよ。


遠藤教史

(BonbonROCKett店長)

創り、伝え、動かす。


黄勇太

(人生をかけて研究に捧ぐ)

しんどいけど楽しい。この「けど」の部分が大事なんです。


上山裕之

(王子動物園 園長)

喜ぶ顔を見られることが最高に嬉しい


イタイタイコウ

(発達科学部3回生)

やりたいことを見つけ、自分を更新し続ける。


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