みなさん、戯曲って読んだことありますか?
書店で戯曲を目にした経験はありますか?
いま首を横に振ったあなたに、今回は戯曲を読むことの面白さを伝えたいんです。
ぜひこの記事を読んで、つぎ書店に行ったとき戯曲に手を伸ばしてみてください!
そもそも戯曲って?
戯曲というのは、演劇や映画などで役者が喋るセリフ、そして「ト書」と呼ばれる、多少の状況説明や役者の動きが書かれた文章から成ります。脚本、あるいは台本と言い換えると少しイメージも付きやすいでしょうか。
ここでみなさん、疑問に思ったでしょうか。「それ、芝居とか番組とかを作る為に使うもので、読み物ではないんじゃないの?」と。
まさにそこが、戯曲と、脚本・台本を大きく分ける所なんです!
みなさんがイメージするような、作品があって、その素材として使われているものは「脚本」、あるいは「台本」と呼ばれるものです。「戯曲」と呼ばれるものは脚本・台本も含みますが、それに加えて、それが作品として上演されていないものも含みます。
つまり、演劇の台本のように書いてあるけど別に上演する予定はないよ!みたいなのが当たり前にある世界、それが戯曲という文学ジャンルなんです!なので、そもそも読み物として書かれているものも多く、実は読んでみると「あれ?意外と読みやすい!」なんてこともあるのが戯曲なんですね〜。
戯曲の楽しみ方
さてさて、戯曲がどんなものか分かって頂いたところで、早速戯曲を読むことの魅力を語っていきましょうか。
小説など他の読み物と戯曲とを分ける、大きな違い。それは読者の想像力による自由さです。
先程も語った通り、戯曲に書かれるのはセリフと、多少の簡単な情景描写のみという場合がほとんどです。その他の部分、例えば人物の表情やセリフの言い方、細かい動き、などなど全て、読み手の想像力に委ねられるわけです。なので、読む人によって全く違う作品になったりもするし、2回目、3回目と読む度に作品自体が変化していくのです。
戯曲は読むというより、一つの作品を作っているのに近いんですね。
さらに、もちろんのことですが戯曲は作品の道標としての役割もあります。そのため、一度実際に舞台や映画を鑑賞して感動した場合には、その作品の戯曲を手に入れれば、読むたびにその時の感動を思い出せるのです。
読むだけで、舞台を観ている時に感じたあの引き込まれるような感覚、響き、輝き、そして熱をありありと感じられる!そんな魔力を持つのは戯曲だけですね。
戯曲はどこで手に入れられる?
さて、戯曲を読むことの魅力をお伝えしたところで、その戯曲はどこに行けばあるんだよって話ですよね。戯曲を読める場所は色々とありますが、今回はその中から代表的なものをご紹介しますね。
【本屋】
まずは本屋です。そりゃそうだろって話ですが、注意しないと本屋に行っても戯曲に出会えないこともあります。
戯曲を探しに本屋に行く際に気を付けて欲しいこと、それは本屋の規模です。
なぜかというと、戯曲ってお察しの通り他の一般的な図書に比べてあんまり読まれてないんですよね…。なので小さい本屋では戯曲が置かれていない場合が多いんです。要は需要が無きゃ供給も無いだろって話ですね。
なので、大きい本屋に行ってください。それも、相当大きい本屋に。
例えば関西エリアで私が行ったところだと、丸善の京都本店や梅田にあるジュンク堂書大阪本店にはそれなりに戯曲が並んでいました。他には梅田の駅に併設されている紀伊国屋書店梅田本店やジュンク堂書店三宮店。このふたつは無いこともないって感じです。この規模の本屋ですら「無いこともない」ってレベルなんです。察してください。
でも、そこまで需要が無い戯曲も、スペースが有り余っているほど大きい本屋に行けば沢山置いてもらえます。一応例を挙げてくと、ジュンク堂書店池袋本店(全10フロアの巨大書店)や紀伊国屋書店新宿本店(2022年秋までリニューアル工事のため規模縮小して営業していますが、「紀伊国屋ホール」という劇場が併設されているため、その入口に展開される広い演劇コーナーは健在です)、三省堂書店神保町本店(ビル建て替えのために、2022年4月から2025~6年まで臨時休業…)など、こういった本屋は涎が滴るほどの蔵書数でテンションが壊れます。筆者が関東出身なので東京の本屋ばかりで申し訳ないですが、もし東京に行く機会があれば、どちらもアクセスしやすい場所にあるので寄ってみてください。
言い忘れてましたが、戯曲が本屋に置いてある際には、「芸術」エリアの「演劇」や「映画」のコーナーにあることがほとんどなので、フロアマップで確認してそこで探してみてください。
【古本屋】
本屋のほかには、古本屋にも戯曲が置いてあったりします。と言っても、その辺の普通の古本屋には戯曲は滅多に置いてません。置いてあったとしても数が少なかったり、そもそも見つけられなかったりと、あまり戯曲探しには向いていません。
でも戯曲探しに良い古本屋に行くと、本屋では見つからなかった掘り出し物が沢山見つかったりするんです。
そもそも需要が低い戯曲の中でも、ある程度の需要はあるものとそうでないものに分かれます。基準は作家が誰かとか戯曲賞を受賞したかによるので後者の戯曲にも面白い戯曲が沢山あるんですが、やはり人気が見込めないと刷られる部数が少ない…。そのような戯曲でひと昔前に出版されたものとなると、基本的に一般的な本屋にはありません。
ほかにも、「せりふの時代」のような戯曲が収録された雑誌などは、昔のものが本屋に置かれていることはありません。
そういった掘り出し物を見つけられるのが、古本屋になるわけです。
古本屋で戯曲を探すときに大事なのは、やはり規模、そして場所です。
規模が大切なのは本屋の場合と同じ理由です。大きい店舗に行けばそれだけ置いてある戯曲の数も多いです。BOOK・OFFとかが安定ですね。それなら全国的にありますし、確率は高くないけどちゃんと掘り出し物もあります。私は三宮のBOOK・OFFで岩松了さんのサイン本が1,000円弱で売られているのを発見したこともあります。ただの自慢です。
そして、場所が大事だと言ったのは、実は古本屋で戯曲を見つけやすいエリアというのがあるんです。といっても筆者の関西歴が浅くて関西ではまだそのような場所を見つけていないので、関東の例を挙げておきます。機会があったら行ってみてください。そしてもし関東以外の地域でも似たような土地を知っていたら、そこの古本屋を覗いてみると戯曲に出会えるかもしれないですね。
・神保町
東京都千代田区。言わずと知れた古本屋の街です。ひとつひとつの古本屋の規模は小さくともそれぞれがそれぞれの専門分野に特化した古本を陳列し、街全体で見ればどんな本屋・古着屋とも比べ物にならない本の数と種類。戯曲以外でも、本屋で手に入りにくい図書はここに行けば大抵どうにかなるんじゃないかなってレベルです。探すのすごい大変だけど。広すぎ。
一回行ったぐらいではそもそもお目当ての本を置いてある本屋を見つけられる可能性が低いので、私が訪れたときに発見できた戯曲探しに向いている古本屋を挙げておきます。
・矢口書店(公式サイト:http://yaguchishoten.jp/)
「神保町 戯曲」とかで検索したら恐らく一番最初に出てくるお店です。まだ本屋で見ることもある新しめで人気な戯曲から、いつ出版されたのかもわからない戯曲まで、店内の天井まである棚に所狭しと並べられています。首の痛みを感じながらも、棚から目を離せず苦しかったです。
・ヴィンテージ(公式サイト:http://www.jimboucho-vintage.jp/)
映画、演劇、スポーツなどに関する図書やグッズに特化した古本屋です。先に挙げた「せりふの時代」を抜け番なしで揃えて入荷していたり、大量の公演パンフレットを棚に詰め込んでいたりと、戯曲だけでなく演劇の沼にハマったら行ってみてほしいお店です。演劇に関する棚は横幅5歩ぐらいですが、余裕でその前で1日潰せます。ここでも首を痛めるのは必至です。
他にも、神保町には沢山の古本屋が並んでいます。下記の神保町の公式サイトに神保町に関する情報がありますので、神保町に興味を持ったら見てみてください。
BOOKTOWNじんぼう:https://jimbou.info/
あと、神保町は神田にあります!つまりカレーが美味しいです!参考までに。
・下北沢
東京都世田谷区。「本多劇場」や「ザ・スズナリ」など有名な劇場を始め、数えきれないほどの小劇場が乱立する街です。あと古着屋の街としても有名ですね。
ここは神保町のように古本屋が沢山並んでいるわけではないですが、ここまで小劇場が溢れている演劇の聖地です。「その辺の普通の古本屋です」みたいな風を装って当たり前のように戯曲や演劇関連の図書が置いてあります。
少し前に下北沢でマチネとソワレを観た日があったんですが、その間の時間に古本屋に立ち寄ってみたら荷物の重量が数倍になったというつらい経験をしました。怖いです。ホラーです。
あと下北沢には「観劇三昧」(公式サイト:https://v2.kan-geki.com/lp/shimokitazawa)という有名な演劇グッズ専門店があります。いつの間にか戯曲探しの紹介から路線変更気味な気はしますが、ここにも戯曲は沢山置いてあるので許してください。そして近くに立ち寄ったら訪れてみてください。戯曲や公演パンフレット、公演映像などなど、演劇関連グッズが沢山で幸せな空間です。
【公演の物販】
さて、戯曲を買える場所でしたね、本題に戻りましょう。
次は公演の物販です。演劇の公演では、劇場内に物販が設置されることがあります。商業演劇ならほぼ確実にあります。そこには色々な公演関連グッズが並んでいますが、大抵売られているのが公演パンフレットと上演台本です。
公演パンフレットというのは、役者の写真がたくさん載っていたり、役者や演出など公演の制作側が作品について語っていたりする冊子です。
そして上演台本というのは文字通り、アドリブシーンを除いて作品で使われたセリフとト書きが全て記されています。これを読むたびに、作品を観ているときの感動がよみがえってくる、魔法の本です。公演を観に行って感動したら是非購入して帰ってください。
そして、先ほど戯曲を読むことの魅力は想像力を働かせるところにあると申し上げましたね。戯曲を読み、それを立体化していく。そういう作業です。その作業の終着点に、作品があるわけです。公演というのは、制作陣のそういった作業によって作り上げられるものです。その終着点を観たのなら、始点、つまり台本を読みたくなりますよね?
そして公演を観て台本を読み、想像力の軌跡を観る。このセリフをこうやって読むのか!このシーンがあんなことになるのか!そういった感動があるわけです。その経験があなたの想像力のボキャブラリーを増やし、他の戯曲を読むのがもっともっと楽しくなる。これはもう買うしかないですね台本!
【Web】
そうは言ってもあんまお金無いし東京行かないし…。という方には、ネット上で閲覧できる戯曲をお勧めします。ネットという広大な世界になると、その量は無限大です。中には有料のものもありますが、無料で戯曲を見れるサイトをいくつかご紹介しておきます。戯曲の入口として是非。
・中野劇団(公式サイト:http://nakanogekidan.com/)
ものすごくコメディの戯曲をネットで公開してくれています。会話で笑わせてくれるものが多く、読んで楽しむのにもとても良い戯曲がたくさんあります。まずは上記のサイトから中野劇団の短編を読んでみてください。軽い気持ちで読める長さなので戯曲の入口としておすすめです。
・演劇集団キャラメルボックス
(戯曲無料公開リスト:https://napposunited.com/caramelbox/
公式サイト:https://caramelbox.com/)
演劇集団キャラメルボックスというのは成井豊さんらによって立ち上げられた劇団で、特にSFの作品の評判が高い人気劇団です。上記のサイトで成井豊さんや真柴あずきさんによって手掛けられたキャラメルボックスの戯曲が無料で公開されているので、人気のある劇団の戯曲を読んでみたい!という方は是非覗いてみてください。
・戯曲デジタルアーカイブ(公式サイト:https://playtextdigitalarchive.com/)
日本劇作家協会という団体によって運営される戯曲の無料公開サイトで、ジャンルも長さも多種多様な戯曲を大量に閲覧できます。これだけの量があれば面白いものからそこまで…というものまで沢山あるのでここで面白い戯曲を見つけるのは時間のかかる作業ですが、色んな戯曲を読みたい!無料の方が手軽!という方はここで戯曲を漁ってみると、おそらく気付く夜になっています。おすすめです。
おすすめの戯曲
Webで無料で読める戯曲も多いとは言え、やはり出版されている戯曲の方が面白い確率が高いです。ただ、お金を出して買うなら買ってみて面白くなかったみたいなのは嫌だ…。ということも考えてしまうと思います。なので、ここであまり戯曲を読んだ経験が多くない方にも楽しんで頂ける戯曲を、筆者の独断と偏見でいくつかご紹介します。気になったら手に取ってみてください。
・J・K・ローリング『ハリーポッターと呪いの子』
言わずと知れた人気シリーズ「ハリーポッター」の続編となる舞台の脚本として「ハリーポッター」シリーズの作者J・K・ローリングが書き下ろしたもの。日本では2022年夏から赤坂ACTシアターで上演されますね(舞台公式サイト:https://www.harrypotter-stage.jp/)。
この戯曲はト書きも他の戯曲より少し詳細に書かれていて、なおかつ「ハリーポッター」シリーズの映画を観た人なら、映画で観た魔法の動きが想像力を補ってくれるので初めての戯曲でも抵抗なく楽しめると思います!
・福島充則『あたらしいエクスプロージョン』
岸田國士戯曲賞という、戯曲賞の中でも有名な賞を受賞した作品です。岸田國士戯曲賞を受賞した作品だからと言って確実に面白いと言い切れるわけではないし戯曲を読みなれていない方に向けてとなると尚更なんですが、この作品はすごく読みやすいし、ひとりで複数の役を演じるという演劇ならではの構成を楽しむような作り方も楽しめる作品です。
・松尾スズキ『命、ギガ長ス』
2019年の初演に続き、2022年にダブルキャストで再演された松尾スズキさんの人気作です。二人芝居で、こちらも複数の役を演じるような構成。二人芝居だからこそ、戯曲を読み慣れていなくても舞台の想像が簡単で、想像する楽しさも物語としての楽しさも十二分に持った最高の戯曲です。
・岩松了『空ばかり見ていた』
先ほど自慢した、BOOK・OFFで見つけたサイン本というのがこれです。サイン本というのもあってお気に入りの一冊なので紹介します。
岩松了さんの作品は、1回読んでもあんまり分からない、2回読んでもあんまり分かった気がしない、でも3回、4回と繰り返し、こういうことなのかな?を積み上げていくことで段々作品の味を認識出来るようになってくるみたいな、そういう文学的な面白さがあると勝手に思ってるんです。
この作品もやはりそういった面白さを持つ作品なんですが、他の岩松さんの作品と比べてまだ読み解く難易度が高くなく、でも物語としての純粋な面白さも十分に楽しめる。岩松了さんの作品を楽しむための最初の作品としてすごく良い作品だと思います。
まとめ
というわけで戯曲について語りまくりました!楽しかった〜。
途中脱線気味だったのは申し訳ないとは思ってますが、戯曲の、ついでに演劇の面白さが少しでも伝わってると嬉しいです!
ぜひ戯曲を入口に、演劇の沼にハマってください。お待ちしております。
ん?趣旨変わってる?気のせいか。