現代短歌が好きです。
短歌と聞くと百人一首のような昔のものを思い浮かべてしまうかもしれません。しかし、私たちが普段使う言葉で詠まれた歌は山ほどあります。私は大学生になって現代短歌にハマりました。31文字でこんなにもワクワクするのかと、一つ一つの短歌を読むたびに思います。今回はそんな短歌の魅力を伝えるため、個人的現代短歌の代表作6選を紹介します。
「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日/俵万智(『サラダ記念日』)
(引用元: https://loosedrawing.com/illust/0354/ )
言わずと知れた、です。国語の教科書に載っていた方も多いのではないでしょうか。サラダってそんなに人によって味が変わるものじゃないし、手の込んだ料理でもない。それでも「君」が褒めてくれたら記念日作っちゃうほど嬉しい。幸せな2人の温かなダイニングが想像されます。
体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ/穂村弘(『シンジケート』)
(引用元: https://loosedrawing.com/illust/0775/ )
最初「ゆひら」ってなんのことか分かりませんでした。体温計をくわえるっていうのもあまり身近じゃないですし。短歌ってその名の通り短いから、前後の描写も登場人物の説明も無くて、理解できないときは本当に全くなんのこと言ってるか分からないんですよね。でも、だからこそ、読んだ瞬間に情景がパッと浮かんだときとか、自分の状況にぴったり合う作品を見つけたときの喜びが増すんじゃないかと思います。
風邪ひいてても雪を見たらつい叫んじゃう。「雪だ」の代わりに言った「ゆひら」が愛しい。友達同士の歌とも、恋人同士の歌とも、親子の歌とも取れます。
抑圧されたままでいるなよ ぼくたちは三十一文字で鳥になるのだ/萩原慎一郎(『滑走路』)
(引用元: https://loosedrawing.com/illust/0933/ )
デビュー作で遺作となったこの歌集のあとがきで彼は「短歌はぼくのこころの叫びを受け止めてくれる器であった」と書いています。彼にとって短歌がいかに大きな存在だったのかがこの歌から伝わってきます。自分を奮い立たせるとともに、短歌を詠む者、読む者にも力を与えてくれる歌ではないでしょうか。
つむじ風、ここにあります 菓子パンの袋がそっと教えてくれる/木下龍也(『つむじ風、ここにあります』)
(引用元: https://loosedrawing.com/illust/0551/ )
成因は違うらしいですが、私はこの歌を読んで街中のビル風を浮かべました。忙しない都会の中で、忙しなく菓子パンでごはんを済ませた誰かのゴミが、ビル風の存在を知らせて、偶然にも小休止をもたらしてくれる。そんな風景です。
短歌はときに、日常の些細な光景を見つめ直すきっかけを与えてくれます。
たとえばハンカチの落し物。
ハンカチを落としましたよああこれは僕が鬼だということですか/木下龍也(同上)
たとえば「7」を示すハンドサイン。
七月、と天使は言った てのひらをピースサインで軽くたたいて/木下龍也(『玄関の覗き穴から指してくる光のように生まれたはずだ』)
もういやだ死にたい そしてほとぼりが冷めたあたりで生き返りたい/岡野大嗣(『サイレンと犀』)
(引用元: https://loosedrawing.com/illust/0656/%25EF%25BC%2589
最初の衝撃的な言葉が、後半の22文字によってとても軽やかになっている気がします。私は死にたいと思ったことないけど、こんくらいの感じで思ってもいいのかもしれない。「しばらくしたら生き返りたいけど、とりあえず今は死にたいな~」くらいの感じで。思うだけなら自由だし。
この歌は二句が「死にたい/そして」と分かれているのも印象的です。五七五七七の定型の中でいかに遊べるかが短歌の魅力の一つではないかと、いち読者として考えています。
ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし/岡本真帆
(引用元: https://loosedrawing.com/illust/0925/ )
作者本人がこの短歌をTwitterに投稿したところ、57000を超えるいいねが付き注目を集めました。誰かが言ってくれた「あなたがいい」に対する喜びと驚きと不安で、おかしな質問をしてしまうこの子はなんて可愛らしいんでしょう。たしかに雨予報の日にはちゃんと傘を持っていって、出先で買うことがない方がいいけど、この子となら増える傘も一緒に笑い飛ばせそうです。
以上、個人的現代短歌の代表作6つを紹介しました。歌集や専門誌はもちろんですが、短歌はインターネット上で気軽に読むことができます。興味を持った方はぜひ歌人の名前で検索したり、Twitterで#tankaを覗いたりしてみてください。