演劇少女だった彼女が、神大に入って選んだのはジゲキだった。ジゲキの一員として作り上げる毎公演で試行錯誤を重ね、自分が納得するものを追い求める。そこに妥協はない。そんな彼女の演劇に対する熱い想いとは。
PROFILE
本田優
日々人間観察、舞台では試行錯誤を。
-そもそも、どうして演劇を始めようと思ったのですか?またジゲキに入部した理由を教えてください。
もともと演劇が好きな一家で、幼いころからよくミュージカルを観に連れて行ってもらっていました。その世界への憧れから演劇をやってみたいと思い、高校で演劇部に入ったんです。大学でも演劇を続けることにしたのは、高校の演劇部では規模が小さすぎてできなかったことが、人数の多いジゲキでならできるのではないかと感じたからです。他の劇団ではなくジゲキを選んだ決め手は、規模感もひとつにはありますが、何よりも派手な芝居をしていることに惹かれたことです。それまでの「演劇は根暗な人がちんまりしている」という私の演劇に対するイメージをくつがえすものでした(笑)。実際私も人見知りする方ですし、だからこそ自分にはないものを手に入れたいと思い、ジゲキに入部しました。
-今でもよく演劇の舞台を観に行かれるそうですね。舞台や日常生活の中から、自分の演技に生かそうとしていることはありますか?
観劇しているあいだ、「あ~、これいいな。」と感じる瞬間がたくさんあるのですが、帰りの電車の中でひとつひとつ思い出して、「あのシーンは、なぜ面白かったのだろう。なぜ良いと思ったのだろう。」とよく振り返ります。「この演技だからこんな風に感じたのか。」というように、論理的に仕組みを考えることが好きなんです。その学んだ仕組みを自分の演技に応用しようと思っています。
あと、日常生活では人間観察が好きでよくしていますね。日々の中で「この人はこういうとき、こんな顔をするのか。」と発見したときには覚えておいて、自分の中の引き出しを増やそうと心がけています。
-本田さんの演技の裏側にはそのような努力があるのですね。新歓公演『室温』での主役であるキオリの演技にも圧倒されました!キオリを演じる上で苦労した点を教えてください。
キオリ役は、私が今まで演じてきたどの役よりも自分とかけ離れていて、とても苦労しました。キオリは、何人もの男性と関係をもって、お金をせびったり、だましたりするじゃないですか。そんな経験したことがないし、感覚として理解することも難しい。本当にどうすればよいのか分からなくなり、映画を観て、そこからヒントを得ようとしたこともありました。その中でも一番苦労したのは、舞台上での男女関係のシーンですね。初めてそのようなシーンに挑んだので、「ああでもない、こうでもない。」と試行錯誤しました。最終的に納得がいったものを舞台で出したつもりですが、正直自分でもあれが本当に合っていたのかよく分からなくて苦しかったですね。
-確かに学生の演劇ではあまり見られないようなドキドキするシーンもありましたね。そんな苦労があったとは…!堂々とした演技だったので人見知りな性格を感じませんでしたが、やはり舞台上では緊張しますか?
今はあまり緊張しないです。充分お稽古をして、「これだ!」と思うものを舞台で出しているので、緊張よりもむしろお客さんに観てもらいたいという気持ちの方が強いですね。逆に、終演後の客出し(*客出し:感謝の気持ちを込めてお客さんをお見送りすること)で、至近距離でお客さんのリアルな反応を感じるときの方が緊張します。OB・OGさんがいらっしゃったときには、特に「ああ、どうしよう。」と思いますね(笑)。
-お稽古は週4回もあるそうですが、練習の中で得意なこと、反対に苦手なことは何ですか?
得意なことは大きな声を出すことですね。ジゲキの中だと、話すたびに「うるさい。」と言われるくらい(笑)。通る声は恵まれたものだと思っているので感謝しています。
反対に苦手なことは即興(*即興:あるテーマに沿って、数人がアドリブで演技をするもの)です。オチまでつけないといけないんですよ(笑)。その場の空気を読んで、どんなセリフが求められているのか、どんな行動に出るべきなのか、それを考えるのが本当に難しいです。だけど、ここで養われた感覚が舞台上で何かトラブルがあったときに役に立つのはもちろん、単純にお芝居のやり取りのリアルさにも繋がるので、演技がさらに良いものになると思います。
-これからどんな役を演じてみたいですか?また卒業後も続けられるのですか?
もし縁があったら、家族が題材の脚本で母親の役を演じてみたいです。お母さんのイメージって人によって様々だし、身近だけど再現するのは難しいと思うんですよね。ですが、だからこそやりがいも感じることができるのではないかと思います。
卒業後は演劇を続けるつもりはありません。ジゲキのOB・OGさんにも小劇場に所属して演劇を続けている方がいらっしゃいますが、そのお姿を拝見して、生半可な気持ちではできないなと実感しています。私は演劇が好きだし、楽しいものだと思っています。でもやはり、それを仕事にすれば、そんなことばかり言っていられないですよね。苦しいこと、つらいこともきっとたくさん出てくる。自分には楽しんで演劇をする方が向いているので、大学でやめようと決断しました。だけど、時には演劇を観に行ったり、演劇が好きな方とお話をしたりして、演劇と良い関係を築いていきたいですね。
-卒業までに何をしたいですか?
卒業までにしたいことか…。もうすでにやり遂げてしまった気がしますね(笑)。幸運なことに、今までやりたいと思ったことをタイミングよくやらせていただいていて。前回の公演では役者だけでなく、舞台監督の役割もさせていただきました。特に新歓公演では、役者として関わりたいと思っている人がたくさんいる中で、2年連続で役者をして、今年は主役までやらせていただきました。部員は60~70人ほどいますが、主役の座を手に入れることができるのはたった1人だけです。本当に恵まれているなと思いますね。ただ、そんな状況の中から選ばれたとなると、もちろん責任やプレッシャーはとても感じます。でも、それも頑張ろうという力に変え、全力で公演に取り組むことができたので、今は本当に満足していますね。
-最後に神大生に一言お願いします。
みなさんにとって「これは誰にも負けないくらい好きだ!」と思えるものはありますか?そう思えるものが何かひとつでもあれば、学生生活が本当にかけがえのないものになると思います。これだったら大学生活4年間、棒に振ってもいい。そう思えたのが、私にとっては「演劇」でした。私はジゲキに入り、普通に大学に通うだけでは到底できないような素敵な経験をたくさんしました。みなさんにもぜひ「これだけは…!」というものを見つけてもらいたいなと思います。それに向かって突っ走ってみる、ということもひとつの選択肢として考えてみてほしいですね。
最後に。ジゲキの公演を観にきてくださるときは、役者1人1人の、努力の結晶である演技をしっかり見てくださると嬉しいです。またジゲキの公演は役者だけでなく、衣装、照明、音響、舞台装置など、観客席からは見ることのできないスタッフの力により成り立っています。本当にクオリティーの高いものばかりなので、ぜひそこにも注目していただきたいですね。
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