No.149

遠回りを愛したい

橋口洋平

(ボーカリスト/ギタリスト/ソングライター)

Presented by Mayu Yamashita
Chihiro Takashima

Photo by


KooBee本誌に掲載できなかったインタビューの全貌をWeeBee特別公開!!
5人組バンドwacciのVo./Gt.を務める橋口洋平さんの貴重なお話をお届けします。

PROFILE

橋口洋平

路上ライブからはじまった、音楽が繋ぐ様々な出会い。

-橋口さんが音楽活動を始められたきっかけは何ですか。


僕は小学校から大学まで一貫の学校に、受験で高校から入ったんですけど。最初のコミュニケーションをちょっと間違えてしまって、高校1年生の時に友達がなかなかできず、人間関係に結構苦しんだ時期がありました。そのときに、唯一友達になってくれた隣のクラスの人がアコギを持って歌を歌っていたんです。僕もその人の見よう見まねでアコギを買って、一緒に当時流行っていたゆずのカバーで路上ライブを始めたのが最初です。不特定多数の人の前で大きな声で歌うということが、それまでの自分にとってはすごく刺激的でした。歌っていると、知らない人が立ち止まって自分の歌を聞いてくれるというのが、それまで感じたことのない喜びでした。様々な出会いがあり、どんどんつながりが増えていくのも楽しかったです。その感覚が忘れられず、今まで続けているような感じがします。

-高校のときはクラブに所属せずに、路上ライブをメインでずっとされていたのですか。


高校のときは剣道部だったので、その練習が終わってから、アコギを持って路上に出て歌っていました。大学に入ってから、いわゆる軽音楽部というものに入りました。そこは結構大所帯で管楽器とかも入れて演奏するような、おしゃれな曲をいっぱいやるようなところでした。ロックやポップスをやっている人があまりいなくて、ジャズ、ソウル、ファンク、R&Bみたいな。なので、そこで音楽をたくさん学んだというような感じですかね。

-では高校の時は独学で音楽活動をやられていたのですか。


そうです、もう本当に見よう見まねで。高校1年生の時に2曲ぐらいコピーしただけで何の基礎もなく、とりあえずコードに知らないメロディーを当てはめて歌詞をつけてオリジナルと言ってやっていましたね。

-wacci結成後、30歳を前にして仕事をバンド一本に変えるという大きな決心をされたと思うのですが、その後押しになった出来事は何かありますか。


一番は事務所に入って、メジャーデビューに向けて前向きに進んでいくということが決まったことですかね。最後にもう一度音楽で食べていくという夢を追いかけたいという気持ちで結成したので、後押しになった出来事としては、一緒にやろうと言ってくれた事務所のスタッフの方との出会いが一番大きいと思います。

-メンバーとはどのような形で出会われたのですか。


みんなそれぞれ別のバンドをやっていて、同じライブハウスに出るバンド仲間でした。あるタイミングで活動休止や解散が重なって、この5人で一度、「橋口バンド」みたいな感じで僕のサポートとして入ってくれることになりました。実際にライブをしてみると、ちょっとかっこいいことを言うと、バンドっぽい音がしたというか。「僕+4人」というよりは、「5人で1つ」みたいなまとまりがあり、バンドを結成しました。

-アーティストの方はレーベルに所属しても絶対に成功する未来が約束されてるわけではく、そのような中で音楽で食べていくというのは大きな決断だったと思います。 私の知り合いにもバンド活動を最近始めた同級生がいますが、世間一般的に就職が安泰だと思いながらも、夢を諦められない大学生がいたとして、そのような大学生に対して何かアドバイスなどありますか。


僕は就職活動の際に50社ほど受けて新卒で会社に入っているので、大学生に夢一本でいけ!とは言えないかなというのはあるのですが。でも、音楽をやるという夢を理由に就活をやめることはできたはずなんですよね。でも辞めなかったのは、就活って人生においてすごく大事なのではないかと思っていたからです。自己分析をして自己アピールポイントを探し、相手に自分のいいところを伝えて、相手から評価をもらうというのは、人生においてすごく貴重な体験というか。僕は曲を書くという意味で何かプラスになることも絶対にあるだろうと思っていたので。実際、就職してから、会社員っていいなと思ったこともたくさんあったし、人にも恵まれて、尊敬できる上司もたくさんいました。
今学生の皆さんにアドバイスをするならば、追いたい夢をしっかりと自分の中で明確にした方がいいということです。その夢を叶えるために今やるべきことは果たしてそこに一直線に行くことなのか、もしもそこに迷いがあるのなら、別に回り道したって、みんなと同じように就職してみたっていいのではないかと思います。自分にその夢を叶えるという最終目標や思いがあれば、全部が結局プラスに働いて、最終的にいい形で叶えられることもあるんじゃないかなと思いますね。どうしても夢は1つに絞らないといけない、そんなに世の中甘いものじゃないと言われることもあると思いますが、僕は夢を叶えるやり方も、叶えた先でも、その手前で回り道をした分の良さがきっとあると思うし、常に保険をかけて選択肢を多くしておくことで分かる気持ちや感情もあると思います。夢を叶えるために、今自分がどのような道を選ぶのかというのは結構しっかり考えた方がいいと感じるので、いろんな選択肢を用意してもっと広く夢について考えてみてほしいです。





“ありのまま” をドラマチックに。誰かの力になれる曲を書き続けていきたい。

-作詞する上で、聞く人の日常に入り込むために意識していることはありますか。


日常に入り込むというか、僕も日常を過ごしているので。日常の中で思うことや感じたこと、嬉しかったことで、十分歌になることはいっぱいあると思っています。だからあまり特別なことは歌わずに、日々生きていて感じるイライラとか、苦しいとか、悲しいとか、嬉しいとか、付き合えて楽しいとか、そのような感情をドラマチックに書けたら、誰かのテーマソングみたいなものになるんじゃないかなと思っています。あんまり大それたことを言わずに、平易な言葉というか、普通の分かりやすい言葉でちゃんと伝わるように書くというのは意識しています。

-私が拝聴した中でwacciさんの曲にはあまりイライラや苦しみが押し出されている曲はなかったように感じたのですが、曲を作るにあたって使わないようにしてる表現やジャンルはありますか。


使っちゃいけない言葉をなくすようにしています。だから自由でいい。よく「愛している」と言わずに「愛している」を言うとか、「好き」と言わずに「好き」と伝えるには、みたいなことがあると思うのですが、そういうことにはあまり興味がなくて、別に「好き」で伝わるなら「好き」でいいやというような感じはありますかね。なので使っちゃいけない言葉をなくすようにしているということが、もしかしたらこだわりなのかもしれません。イライラしているという話で言えば、確かに怒りが表に出た曲ってそんなにないかもしれないですね。ただ、聞く人を元気にできるような応援歌を書こうとなったときに、1番最初にAメロやBメロに来てフックとなるのは、負けそうな自分や思い通りに行かない自分、好きになれない自分だと思います。例えば『大丈夫』という曲や、『空に笑えば』という曲もそうなんですけど、前向きな歌の中に、いっぱいイライラだったり、苦しみだったり、やりきれなさ、もどかしさみたいなものを入れるようにはしていますね。その方がやっぱり、前向きな歌ほど説得力が増すのかなと思います。

-音楽活動をする上で、人々に歌で伝えたいことはありますか。


歌で何かを伝えたいという気持ちは明確にはありませんが、曲をリリースしていく中で、「この歌で受験を乗り切った」とか、「この歌に救われてまた生きようと思えた」とか、ただ僕は頑張って目の前の曲を書き続けてきただけなのですが、そのような感想をいただけることが15年やってると少なからずあるんですね。やっぱり人間欲が出るもので、そういう誰かのためになる歌をこれからももっと書きたいなとは思います。別に元から何かを伝えたいから歌ってるわけではないのですが、誰かの力になったり、大事な1曲みたいな存在になるような歌をこれからも書いていきたいという気持ちは漠然とあります。

-去年『リバイバル』という曲がリリースされて、それがコロナ禍の自分にとても刺さりました。『Baton』では親子のことを書かれていますが、そのようなテーマはそれぞれの曲ごとに橋口さん自身で考えられたり、メンバーで話し合われたりするのですか。


最初のテーマは僕一人で考えることが多いですね。タイアップと言って、ドラマ主題歌や 映画、アニメなどきっかけをもらって書くことも結構あります。今言っていただいた2曲はタイアップでテーマをいただいて書きました。『リバイバル』という曲は、『めざましどようび』のテーマソングで、コロナ禍が落ち着いてきたタイミングだったのもあって、週末外に飛び出したくなるような曲を書いてほしいとオーダーを頂いて書きました。『Baton』はドラマのエンディングで、絆をテーマに書いた歌です。『別の人の彼女になったよ』という歌などのラブソング系は、あまりタイアップはないので自分でテーマを決めて自由に書くことが多いです。

-『別の人の彼女になったよ』は女性目線の曲だと思うんですけど、そういう曲はどういう風にして作曲されていますか。


周りの女友達に、今の彼がいて何の不満もないのに、前の彼といた時の自分の方が素でいられたな、みたいなことを言っている人たちが大量発生した時期がありました。20代後半ぐらいになってくると、学生の皆さんもいずれわかると思うんですけど、そのような経験をされる方がいると思います。決して未練ではなくて、忘れられない恋愛を1つや2つ心に残しながら、結婚したり、次の人と付き合ったりしている人も結構いるみたいで、そんな話を聞いていて、これは歌になるかもなと思って書いた歌ですね。

-ホームページに書かれている「聞く人全ての『暮らし』の中にそっと入り込んでいけるようなポップスを作るべく結成したバンド」というコンセプトは、どのようにして決められましたか。


当時は何の色もない地味なバンドで、メンバーやスタッフの皆さんと相談して「日常を歌う」というコンセプトをつけました。ただ、続けていく中で代表曲が生まれて、曲を出す度に「これはwacciらしい」「これはwacciらしくない」など色々な感想を言ってもらえるようになって、今は自分たちの色があるように感じます。だから、活動をする中で皆さんに色をつけてもらった部分がありますね。特に応援歌とラブソング。この2本の柱に関しては、 「これが自分たちらしさです。」と胸を張って言えるようになった気がします。

-長年続けられてきたからこそわかることや曲作りをする中で得たものはありますか。


曲をリリースするということは、誰かに届いた時点で、その曲が伝わるか、伝わらないかという正解がもらえます。その中で「この言葉は絶対に届く」「この言葉は嫌悪感を抱かれる」といった言葉の取捨選択は、この15年でできるようになりました。今までよりも分かりやすく、聞いている人にきちんと届く歌を書けるようになっていると思います。それに付随して、アレンジ面でもトライ&エラーを繰り返して、バンドみんなで成長できていると感じます。サウンドに関しても15年前にはできなかったことが今ではできていると思います。


長ヶ原 誠

(発達科学部准教授)

”自分に合うか、合わないか”を考える前に、いろいろチャレンジしてみてほしい


古森悠太

(経済学部4回生/プロ棋士四段)

自分らしい、面白い将棋を。


近石涼

(シンガーソングライター)

夢を口に出して


河上 隼己

(ESSディスカッション全国大会2位)

後悔しないように続けることがエピソードを作る


一覧へ戻る