NO.90
秦野 実(はたのみのる)
(“甘夏食堂”店主)
「好きだったらなんでもやれる。」

下宿生を中心に神大生から根強い支持を集める甘夏食堂。10周年を迎え、旧店舗向かいにリニューアルオープン。サラリーマンから定食屋の店主になった秦野さんが甘夏食堂を開くことになった経緯、そして甘夏食堂へかける想いを取材しました。
Presented by Marina Yoshida,Madoka Yoshihir
Photo by Hitomi Tsuura
自分で責任を持てることがしたい
― お店を始めたきっかけはなんですか?
 甘夏食堂を始める前はごく普通のサラリーマンで、10年前、38歳の時に脱サラしてこのお店を始めました。そこから料理のことを勉強し始めて、料理教室に通ったり、修行と称して洋食屋さんで調理のアルバイトをしたりしました。その時アルバイトしていたお店の調理師さんは、技術はもちろんのこと、仕事にかけるスピリットもすごかったんです。今でもあのスピリットは僕に影響し続けていますね。  脱サラのきっかけはいっぱいあったんですが、まず阪神淡路大震災があったということ、そして会社が大きな事件を起こしたということがあり、自分の身がどうなるか分からないということを実感したんですね。それで、自分の生活が、自分の力の及ばないものに覆されてしまうのは嫌だと感じて、やるなら自分で責任の持てることをする方が楽しいかなと思い、独立を決めました。自分で色んなことをやってみたいという想いもありましたね。みんなで同じ目標に向かって頑張れる仲間を自分で採用したり教育したりと、全て自分の力でコントロールできる、自分のお店を持ちたいと思ったんです。  自分のお店だから、モチベーションを高く持つことができるんですよね。自分のアイデアで人を喜ばせて、その反応を目の前で見れるという仕事が、やってみると本当に楽しいんです。お店は自分のアイデンティティで、自分の分身みたいな感じです。だから、移転前の店が向かいに残っているのは自分の死体をここから見ているみたいで変な感じです(笑)
― モチベーションは今までずっと保ち続けられたんですか?
 無理かもと思うことは何回もありましたね。最初の2~3か月は特に経営が苦しくて、「なんでこんなことしてるんだろう」って思っていました。それでもモチベーションが折れてしまうのを避けられたのは、かみさんのおかげだと思います。スーパーマンみたいな人だと思っていますね。僕はサラリーマン時代、予算とかコスト管理とか数字ばっかりやっていた人間で、お店開いてからも狂ったように客単価とか席数とかの計算を一日中やっていたんです。でもかみさんはあまり数字にとらわれすぎず、「いけるんちゃう?」って言い続けてくれたんですよね。節約するときには節約するし、遊ぶときにはお金を使うっていうスタイルで、僕をシリアスに考えすぎないようにさせてくれました。かみさんがいたから続けてこれたんじゃないかなと思っています。
― 甘夏食堂のコンセプトやこだわりを教えてください。
 「外食は体に悪いからやめなさい」と言う人もいますが、僕は「体に良い外食」を心掛けています。僕は学生時代4年間とひとり暮らし6年間の計10年間、ほとんど料理をせずに暮らしていて、いつもどこで何を食べるか、には悩んでいました。だから、そんな当時の僕みたいな人に向けたお店を作ろうと思ったんです。僕が一番甘夏食堂のコアな顧客なんですよね(笑)いつも実家で食べるような食事が出たり、ひと言ふた言挨拶ができたりするようなお店って意外と無いのかなと思って。きれいで入りやすくて、カフェみたいだけどカフェじゃない、お酒を飲まずに、定食を食べられるお店。なにより学生でも負担の少ない値段設定にしています。だから1000円以内で納めるというのは大前提でした。メニューは日替わりの定食2種類とカレーライスの計3種類だけにしている分、早く美味しく出せるようにしています。それから小鉢を増やしてバラエティを増やして楽しく選べるようにしています。メニューが少ないので初めての方にはびっくりされますけどね(笑) 和風、洋風を選んでもらって、その中の一品の小鉢を自由に選んでもらうのが僕ができる料理のせめてものバラエティですね。ぜひ迷ってください(笑)
好きだったらなんでもやれる
― 常連さんは多いですか?
 多いですね。場所も場所ですし、常連さんがいない(とこの)お店は成り立ちません。多い人は週3で来る人もいますね。昔は週6で来るような人もいて、就職や恋愛の相談を受けていたこともあって楽しかったです。実は、常連さんには勝手にあだ名をつけている人もいて。そのあだ名を使ってスタッフの間でやり取りをするんです(笑) あだ名のあるお客さんとはもう10年来のお付き合いですね。
― 今後はどのようなお店にしたいですか?
 一番下の子供が大学を卒業するまでは必死で頑張って、そのあとはのんびり、この六甲という地域に恩返しできたらいいなと思っています。せっかくこの地域で、地域の人と仲良くお店をやっているので、お店を使ったボランティアみたいなものがしてみたいですね。例えばお年寄りが子供に読み聞かせするイベントだとか。それから、かみさんと二人で、お客さんとお話をしながらお店ができればなと思います。体が動く間は店を続けたいですね。  神大生は下宿の人も多くて、就職で遠くに行ってしまう人も多いと思います。だけど他所に行ってしまうと学生時代に住んでいたところというのは「学生時代の街」になると思うんです。例えば東京で大学に行って東京で就職すると、東京という街はいろんなカラーを持った街になるんですが、学生時代だけを過ごした街というのは学生時代そのもので、他にカラーがないんですよ。僕自身も、神戸が実家で、東京が勤務先で、広島が大学の時だけいた街なんです。今となっては、広島に友人は誰もいなくなってしまって、通っていた学校も移転してしまって、もう何もないんですよね。だけどもしこのお店をずっと続けていけば、神大生が他所で就職して、神戸に帰ってきて会う友達がいなくても、「大学時代にあったお店がまだ残ってるわ」「まだあのおじさんがやってるんや」「食いもん変わってねえわ」ってなるかもしれない。学生時代の思い出の主役は一緒にいた仲間かもしれないけど、その脇役や思い出の場所になればいいなと思っています。
― 神大生にひとこと、お願いします。
 まずは、ぜひ食べに来てください!一人で来るもよし、カップルで来るもよし、グループでもよし、長居するもよし、パッと来てパッと帰るのもよし、喋りたくなかったら静かに食べてもいいし、僕と喋りたかったら話しかけてくれてもいいし、どれでもいいから来てくれたら嬉しいです。  僕の経験から自信を持って言えることは、得意でなくても一生懸命やれば、完璧に上手くはいかなくても、Bクラスにはなれるということ。仕事ってそういうものじゃないかなと思います。仕事って幅広いから、苦手な部分に目を向けてしまったら多くの 仕事が苦手な仕事になってしまう。だけど、その中でも部分的に得意なことはあるかもしれないし、たとえ得意ではなくても、好きなことだったら苦手な分野でもなんとかなるなと、僕自身お店を始めて思いました。接客も料理も自信は無かったんですけど、自信が無くても、好きだったらやれるっていうことに気付きました。苦手なことでもそれが嫌じゃなければ、向き不向きは関係ないと自信を持って言えます。やりたいことならとにかくやってみればいいと思います!
57. 月井涼太郎
国際教育プログラム「Up With People」参加者
19. 知らんやん神戸
「知らん人鍋」代表
31. 森 大地
「キッカケプロジェクト」トレーナー
70. Scarlet
アカペラサークルGhanna Ghanna
79. 本田優
自由劇場(*以下:ジゲキ) 2016年度新歓公演『室温』主演