NO.99
津田英二
(神戸大学大学院人間発達環境学研究科教授 交流ルーム(カフェアゴラ)運営委員)
「障害のある人の世界と障害のない人の世界、その中間をつくりたい。」

鶴甲第2キャンパス6階、大阪湾を臨む展望と落ち着いた雰囲気を持つカフェアゴラ。運営が安定するまでには、苦労もあった。障害のあるスタッフが学生や店の運営に自然と関わり、力をつけていく過程を親身にサポートする津田教授の考え方に迫る。
Presented by Rina Fujimoto, Naho Takamochi
Photo by Moe Kutsumi
障害のある方たちとも親しくなれる機会を。
― カフェアゴラができたきっかけを教えてください。
発達キャンパスの周りには食事をするところがなく、アゴラが開店した2008年ごろは生協も15時ぐらいに閉まっていたんです。とても不便だったので教授会でも話題になっていました。企業にも声をかけたのですが、商売にならないからと断られ続けていて。そんなときにキャンパスの耐震改修で建物を一部変えると聞き、食事ができる場所を作ろうということになりました。その後、実際の運営やサービスは誰がするのかを考えなければならなくなり、最終的に僕のところに話が来たんです。そのときに、水道筋商店街で重度の脳性麻痺がある吉田さんという方が、障害者の作業所としてカフェを運営しているのを思い出しました。その当時の法律改正で、障害のある吉田さんがオーナーとして事業をできなくなる可能性があったんです。そこで彼にアゴラでオーナーをやってもらってみてはどうかと考えたんです。大学側の賛成を得ることもできて、とんとん拍子で話が進みました。人間の発達について学び、深めていく発達科学部として、障害のある方と気軽に関わることができる機会があるのは非常に意義があることですし。それがスタートですね。 ちなみに、アゴラとはギリシャ語で広場という意味です。古代ギリシャで、民主主義の根底にあったのは対話であり、その対話のなされる場所が広場なんです。これは僕たちがつけたんじゃなくて、アゴラができるときに学生たちから名称を募集して選びました。
― どのように運営しているのですか?
今は有給のスタッフが4人と実習生のスタッフが2人働いています。メインである有給スタッフの4人のうち、必ず2人は店内にいるようにシフトを組んでいます。僕は彼らの勤務簿にはんこを押したり、メニューを作り替えたいときに相談に乗ったり、他の教授からの相談をつないだりする役割です。基本的には彼らだけで運営していますね。
アゴラ創立当初、大学はオーナーの吉田さん一人分の雇用の経費しか準備してくれませんでした。ですが、重度の脳性麻痺の方がひとりで全部を仕切るのはとても難しいんです。そこで彼を支援しながら店を運営する枠組みを作ることが最重要課題になりました。そこで目をつけたのが再チャレンジ支援政策です。これは、国民の教育機関での学び直しや、新たなチャレンジを支援する政策のことです。吉田さんの手助けをする実習生を募り、店を障害のある方が社会に出るチャレンジをする場所とすることで、国から吉田さんや実習生を支える支援者を雇用するための助成金をもらうことができました。再チャレンジ支援が終わった頃には、この店の実績を大学が認め始めていました。また障害者雇用率の遵守を大学も厳しく求められるようになって、障害のある方を積極的に雇用する必要がある時代になってきていました。実習生が3年間すごく真面目に勤務していたこともあり、大学がアゴラの雇用の枠を増やしてくれたんです。おかげで再チャレンジ支援が終わってからもずっといままで運営することができています。また、有給スタッフの雇用枠は増えましたが、実習生が働くという形も残しています。
― 理念はありますか?
一生懸命働いている人たちがほっと一息ついて元気になったり、研究のアイデアが生まれたりする場を作っていくというのが公式のコンセプトです。さらに、学生さんが障害のある人たちとも親しくなれる機会になり、彼らもちゃんと働いているということを知ってもらうことも狙いの一つです。障害のある人たちでもしっかり社会に貢献しているという姿を、学生たちが普段から見て卒業していくと、将来なにかの役に立つんじゃないかって思うんですよね。また、学生がお客さんとしてだけじゃなくて、一緒に働けたり、どういう店を作っていくかを一緒に考えたり、そういうところも含めて学生にもっと参加してもらいたいという想いもがあります。 あとは、アゴラが発達科学部のひとつの味、魅力になったり、評価される対象になったりするのは純粋に嬉しいです。
役割を任されて初めて、社会で生きていく力がつく。
― 障害のある方が働く場として、なにか心がけていることはありますか?
障害のある人は得意なことと不得意なことが極端である場合が多いんです。だから、仕事を分担してその人に合った働き方を考えることが大切だと思っています。例えば、ポイントカードです。食事をする毎にスタンプがもらえるカードのことなのですが、このカードの外側には、スタッフが絵を描いてくれているんですよ。接客業務が苦手な人も多いので、自分の好きな絵を書くという仕事はとても重宝されています。あとは、その人を信じて役割を任せるということですね。学校では数の計算はまるでダメだったスタッフも、ここで実際にクッキーを売ってお釣りを渡す経験を通して、数が分かるようになりました。実生活の中で役割を任されて初めて身につくことがあるんです。
今は認められてスタッフになった実習生がいるのですが、最初は人と目を合わせることもできない子でした。今まで嫌な目にあってきたらしく、自分に全然自信が無くて。でもここで働くようになってからは、学生たちとふれあうことで元気が出てきたんですよね。これまでは調理やコーヒーを淹れる担当でしたが、今度はさらに積極的に少し複雑な金銭面の管理を担当してくれています。こうやって彼らに社会で生きていく力がついていくのだと実感しています。
― ここで働くことがスタッフにとってプラスになっているんですね。
そうですね。障害のある方は社会福祉関係の施設で働くなど、社会の中で障害者の居場所として作られた場所だけでの生活を強いられていることが多いんです。でもそれでは障害のある人たちの世界と、障害のない人たちの世界が分断されてしまうと思いませんか?分断されたままでいいのか、中間の部分をつくることが大事なんじゃないか、とずっと思っていて。だからここで、学生たちやお店の運営に関わることはとても価値があると思います。
基本的に実習生には給料が出ないんですけど、皆とても貢献してくれていて、営業成績ナンバーワンみたいな実習生もいます(笑)。それなのにその子にお給料がないのは申し訳ないと思っていました。ある教会から寄付金を貰えることになったので、週に1日数時間だけ彼女は給料をもらって働くことになったんです。このようにその人その人に合わせて少しずつ勤務形態も変えています。その実習生は最初週2日ここに来てて、週3日は地域の障害者支援事業所に通っていたんですけど、アゴラで働くことを楽しみにしているらしく、今ではここに来る日の方が多いですね。
他にも、最初から働いてくれている自閉症の男性は、ここに来る前は20年間引きこもっていたんです。2回ほど就職したのですが、どちらもいじめが原因で退職してしまったそうです。この場所を知った母親が彼を連れてきたところ、週に1回だけなら来てやってもいい、と彼が言ったので働くことが決まりました。それなのに次の年には、毎日来たいって言ってくれたんです(笑)。今では彼の真面目な勤務態度が認められて、正式に雇用されています。
― アゴラが創立されてからいろいろなことがあったんですね。
山あり谷ありです。スタッフ同士の関係がうまくいかない時にみんな僕に解決を求めるメールを送ってくるんですよ(笑)。でもこの一年ぐらいは本当に平和なんですね。2011年頃、再チャレンジの助成金が切れるときは特に大変でした。大学が出してくれるお金だけになったら、スタッフを雇用できなくなってしまうので。神戸市の色々な部署に行って助成金の制度を探したり、何かと連携して事業できないかとか考えたりしたのですがうまくいきませんでした。経営方針をガラッと変えてしまおうか、とまで考えたのですが、最後の最後に大学側が雇用枠を増やす話を出してくれました。そのおかげで今でも無事続いているのですが、運営が安定するまでは大変なこともありました。
― 新しいことを始めるためには多くの苦労があるんですね。では、これからの目標はなんですか?また、神大生に一言よろしくおねがいします。
やはりこれからも安定して運営し続けていくのが一番の目標です。あとは、発達科学部の学生でもアゴラに来たことないなっていう人が結構いるんですよね。入学初期のガイダンスで話をしたり、チラシを入れたりしてもなかなか伝わっていないみたいで…。このお店の成り立ちや目的について、学生さんたちにちゃんと知ってもらって足を運んでほしい。そこが課題です。あと学生の皆さんに伝えたいことは、「神戸大学生よ、大志を抱け」ってことですかね!
92. 今道拓也/柴田一慶
神戸大学フットサル部主将/神戸大学フットサル部同神戦係
17. 河内 鏡太郎
文学部卒元ジャーナリスト
98. S.Shima
工学部2回生
86. 坂本 安弘
生協
9. 小林 由季
様々な生き方を提案するライフプランナー