シンタメ

スピッツおばさんになろう

もへじ


香箱座りネコです。かわいいね。


「好きなアーティスト誰?」


何気ない質問に身構えてしまう。


「試されている」気がするのだ。



自分の人生観、恋愛観、死生観を覗き込まれて推し量られているようなものなのに、ひととの出会いのうち、わりあい序盤で放たれる台詞。 わたしはこういうとき、大抵今流行りのアーティストやらを列挙して「置きに」行ってしまうのだけれど、本当はスピッツがいちばん好きだ。スピッツおばさん(21)(注:記事公開日時点)である。


『チェリー』や『美しい鰭』、『ロビンソン』あたりしか知らないひとは言うだろう、「スピッツこそ置きにいってるやん」と。 たしかにスピッツの音域は比較的狭く、性別を問わず歌いやすい。上に述べた3曲はカラオケの十八番になっているひとも多そうだ。発表から約20年経った今でも、『チェリー』などはランキングの上位に君臨している。親世代などは特に、「なんとなくうっすらと好きなアーティスト」としてスピッツを認識しているひとばかりなのでは。


だが本当に「置きのスピッツ」なのだろうか。シンプルな楽器構成ながら彼らの紡ぐ歌詞と奏でるメロディの深深深さ、明るい曲調に垣間見える仄暗さ、爽やかなボイスで歌い上げるヘンテコさ(下品さ)を一度知ったら、もうスピッツにわかには戻れない。あなたもスピッツおじさん、或いはスピッツおばさんの仲間入り。今回は、わたしのおすすめスピッツソングを3曲紹介させてほしい。スピッツの歌は積極的に励ましてくれる、刺しにくる曲は少なくとも、いつでもわたしたちのそばにいる。



まいにちが虹色なあなたへ-『運命の人』


バスの揺れ方で人生の意味が 解かった日曜日 でもさ君は運命の人だから 強く手を握るよ ここにいるのは 優しいだけじゃなく 偉大な獣 愛はコンビニでも買えるけれど もう少し探そうよ 変な下着に夢がはじけて たたき合って笑うよ 余計な事は しすぎるほどいいよ 扉開けたら 走る 遥か この星の果てまで 悪あがきでも 呼吸しながら 君を乗せて行く アイニージュー あえて ただのユートピアも 汚れた靴で 通り過ぎるのさ 自力で見つけよう 神様

(「Uta-Net」参考 https://www.uta-net.com/song/10040/ 最終閲覧日:2025/09/29)


ラブソングって、「愛に値札なんか付けられるもんか」と歌うものだ。少なくとも人口に膾炙している曲はそうだ。わたしはそう思っていた。これを聴くまで。スピッツは、「愛はお金で、コンビニでサクッと買えてしまう均質的なものに過ぎない」と、愛に対する崇拝のようなものを捨てている。少女漫画で見るようなうつくしいものなんかでないのだと皮肉を言う。フリフリでキメキメの下着なんて次元がマイナス1した世界線でのあるあるであって、実際はきっと上下バラバラだし、ヨレてるし、穴空いてるもんです。知らんけど。 そんなリアルな、かっこつかない日々でも、愛って何だろうかなんて君ともう少しだけ探りたいし、安易な幸せに飛び付かずに、泥臭くがんばりたいという人生の並走願望が見える。君への慈愛が見える。


大事なひとがいて、まいにちが虹色なあなたには、そのひととこの曲を、ドライブなんかしながら口ずさんでほしい。羨ましい。もう冬ですね。そうですか



…ただ先ほども少しだけ触れたように、この曲はただの等身大のふたりを描くラブソング、というわけではないのかもしれない。というのもMVを見ると冒頭、メンバー4人の検死シーンから動画が始まるのだ。ラブソングに検死?妙だな…生と死が強調されすぎている。そう、スピッツが安易に曲名に「運命」だとか、歌詞に「愛」なんてつけるわけがなかったのだ。そうなると「この星の果てまで」という歌詞にも違う意味が見えてくるような気がするし、「アイラブユー」でなく「アイニージュー」なことにも意味があるように思えてくる。なんだかラブソングというよりは、生老病死を共にするつがいとして君を欲する人生並走願望ソング、激重感情ソングな気もしてきた。その意味でも虹色なあなたへおすすめしたい。お相手への感情が深まりますよ。多分!


とはいえ曲の解釈など無限にあってよく、間違いも正解もないと思う。スピッツの曲は何層にもメタファーが重なっており、MVは謎映像であることが多いので、ぜひ一度MVを見て解釈してみてほしい。

https://www.youtube.com/watch?v=AMWDAuPx26Q

猫派なあなたへ-『猫になりたい』


灯りを消したまま話を続けたら ガラスの向こう側で星がひとつ消えた からまわりしながら通りを駆け抜けて 砕けるその時は君の名前だけ呼ぶよ 広すぎる霊園のそばの このアパートは薄ぐもり 暖かい幻を見てた 猫になりたい 君の腕の中 寂しい夜が終わるまでここにいたいよ 猫になりたい 言葉ははかない 消えないようにキズつけてあげるよ

(「Uta-Net」参考 https://www.uta-net.com/song/20194/ 最終閲覧日:2025/09/29)


あなたは犬派ですか、猫派ですか。わたしは犬飼いなものの猫派です。(ウチの子が一番だけども) スピッツも猫が好きなんでしょう、ジャケ写にもなっているほど。猫はどの時代の曲も定期的に歌詞に登場する。 犬派なあなたも、猫になりたいかなりたくないかで言えば、自由に世界を行き来して、気まぐれにひとに甘えて、そして大前提として愛されまくる存在である猫になってみたいなと思うひとは多いのではないか。この曲はそんな願望を語ったもの-



と見せかけてこれは人間同士の哀しいお別れの歌なのではないかと思う。「からまわりしながら通りを駆け抜けて 砕けるその時は君の名前だけ呼ぶよ」という、語り手の少し辛そうな心境が伺える歌詞に鑑みて、この曲の「君」はもういなくて、その結果「アパートは薄ぐもり」状態なのかもしれない。アパートのそばにあるのは庭園でいいのに、敢えて霊園だし。ただ別れただけかもしれないし、死別かもわからない。けれど、暖かい幻は、君の幻かもしれない。そう考えると、きっと君とはお別れをしてしまった歌な気がしている。だいすきなひとにキズなんてつけたいと思わないひとが多いだろうが、失った今敢えて「キズつけ」たいと言っているのが印象的だ。記憶に残して、幻が消えないようにしたいのはなんだかいじらしい。キズをつけられるってことは、実体があるということだから、僕は君にきっとキズをつけることもできない。 それはそうと猫って可愛いですよね。

https://www.youtube.com/watch?v=l6Iw4CKUhi0

この曲も『運命の人』と同様、解釈は無限に開かれており、猫になりたい我々の歌として解釈するもよし、ラブソングとして捉えるもよし、カラオケのモテ曲として特訓するもよしである。スピッツってめちゃ歌いやすいし。猫好きなあなたは覚えましょう。いつか科学が発展して、ひとが猫になれる時代がきたとき、優先的に案内してもらえるかもしれないし。



夜行性なあなたへ-『夜を駆ける』


研がない強がり嘘で塗りかためた部屋 抜け出して見上げた夜空 よじれた金網をいつものように飛び越えて 硬い舗道を駆けていく 似てない僕らは細い糸で繋がっている よくある赤いやつじゃなく 落ち合った場所は大きな木も騒めきやんで 二人の呼吸の音だけが染みていく 君と遊ぶ 誰もいない市街地 目と目が合うたび笑う  夜を駆けていく 今は撃たないで 遠くの灯りの方へ駆けていく

(「Uta-Net」参考 https://www.uta-net.com/song/16037/ 最終閲覧日:2025/09/29)


※『夜に駆ける』ではない!

ピアノメインのイントロとやさしいギターと、サビの少し独特なドラムのリズムも相まって、わたしがスピッツの中でいちばん好きな曲。 「似てない僕らは細い糸で繋がっている よくある赤いやつじゃなく」という歌詞が特に好きで、赤い糸について「やつ」と皮肉めいて言及しており、運命やら愛やらの大きな物語に対して唾を吐きかけているのもスピッツらしさを感じる。この曲を、歌詞を見ながら一度聴くと、そんな細い糸で繋がったふたりが、なにか迫り来るものに対して駆け落ちしている曲に聞こえる。


ただこの曲が収録されているアルバム『三日月ロック』が、9.11テロのちょうど1年後に発売されていることを知っていると、この曲の見方はかなり変わる。スピッツのボーカルであり、作詞作曲をしている草野マサムネ氏は「9.11に影響を受けている」と明言しているので、この曲はテロ、紛争もモチーフの一つになっているのかもしれないと考えることができる。


「研がない強がり嘘で塗り固めた部屋」というのは安全な国側の「僕」で、「君」は捩れた金網の向こう側にいるような、紛争があるような危険なところに住んでいるのではないか。 そんなふたりの関わりを、「撃たないで」ほしいような儚くも尊いものとして書き上げているようにわたしは感じるのだ。


スピッツの曲は、啓蒙めいた感じはしないので、反戦歌というには過剰かもしれない。ただ、ラブソングにも反戦歌にもとれる層の厚さは特筆すべきところだ。



力尽きたので布団に入る。(まとめ)


ごめんなさい本当はもっとおすすめしたい曲があるんです。(最初は6曲紹介するつもりだった)お布団に入ってしまったので今回はこの辺にしておきます。実家暮らし人間のマットレスはふかふかなのだ。


最後に、スピッツの良さを僭越ながら(無理やり)(個人的に)まとめてみる。ブログという性質上、歌詞全文を掲載できないし、音楽を流しながら語れないのが心苦しいのだが、


①繰り返しやシンプルな語彙の歌詞・ふわっとしたかわいい歌詞が多く ②メロディ構成も派手な転調やアレンジがなく口ずさみやすい明るくやわらかなものながら ③歌詞や何層にもメタファーが重なっていたり、一音一音に深い思いが込められており ④こちら側の聴く姿勢(カジュアルにでも真剣にでも)により様々な色を見せる、化ける、複数の解釈が生まれる ⑤真剣に聴いているうちに不思議な雰囲気のMVや解釈ブログに触れ、スピッツの素晴らしさに頭を抱えることができる


のが、個人的「わたしがスピッツおばさんになったポイント」だ。全然スピッツは「置き」じゃない。言葉ごときが、しかもわたしの言葉ごときが語り尽くせないので、ぜひ人気順でいいのでまず15曲聴いてみてほしい。スピッツのYouTubeコンテンツをサーフィンして、数時間経って、気づいたら海の中ではなく沼だったなんてことも有り得る。有り得てほしい。



わたしがスピッツに衝撃を受けたのもたった6年前。きっとわたしの浅いファン歴ではスピッツの深さについてまだまだ知らないことばかり、気づかないことばかりなんだろうと思う。筆舌に尽くし難いとはこのことで。誰か全部聴いて、考察して、解き明かしてほしいくらいだ。解き明かさなくてもいい。わからないことがあるのも、人生においてやることが増えて素敵だと思う。とにかくスピッツは、まぶしくて仄暗くて、青くて、やわくて、だいすきだ。



ちなみにこの記事を書くのはとても恥ずかしい。やっぱり人生観であって恋愛観であって死生観であるので…。穴の空いたパンツを見られる方がまだマシかもしれない。 でもわたしは、


「好きなアーティスト誰?」


何気ない質問に、あなたが身構えず


「スピッツだよ」


と答えるきっかけに、少しでもなればいいと思います。


スピッツおばさん(おじさん)になろう。

この記事を書いた人

もへじ

へのへの

RECOMMENDED

月見のお供にイケメンを


大学について個人的に納得いっていないこと4選

吉田


神戸大学体育会サッカー部主催 「サッカー教室」

けんち


一覧へ戻る