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演劇鑑賞方法論特殊講義 レジュメ

もやしの人





演劇鑑賞方法論特殊講義 レジュメ



講義内容



1.演劇は如何にして可能か。
2.観劇マナー
3.演劇鑑賞を楽しむための基礎知識
4.[余談]観劇にもスキル




1.演劇は如何にして可能か。



「どこでもいい、何もない空間――それを指して、私は裸の舞台と呼ぼう。
ひとりの人間がこの何もない空間を歩いて横切る、もうひとりの人間がそれを見つめる――演劇行為が成り立つためには、これだけで足りるはずだ」
ピーター・ブルック『なにもない空間』晶文社より




演劇には、以下の3つの要素がある。
・空間(=「裸の舞台」)
・行為者(=「ひとりの人間」)
・観察者(=「もうひとりの人間」)



現代日本の演劇に照らし合わせると…
・空間=劇場
・行為者=出演者やスタッフ
・観察者=観客

→我々観客も、演劇が成立するための要素である。



Q.では、劇場における観客の役割は?



・観客は、チケットを購入して来場する。
・出演者やスタッフ(制作者)は、演劇を観客に届ける。

制作者の目的=観客を楽しませること
ならば…
観客の目的=演劇を楽しむこと


「観客や読者が作品に感情移入するのは、『主体的に参加した時』です(中略)見ている人間が思わず想像するからこそ、感情移入が始まる」
鴻上尚史『演劇入門』集英社より




主体的に想像力をもって、目の前の演劇を楽しもう。



※注意
観客は、1人ではない。
チケットの額面だけで言えば、大きければ数百万から数千万円という大金が、1回の公演に支払われている。

自分が楽しむと同時に、他の観客の楽しみを邪魔しないことが求められる。

そのために、観劇マナーを知ろう。



2.観劇マナー



①開演前
・遅刻、ダメ、ゼッタイ

遅刻したら…
上演中に席に案内される。他の観客の視界と意識を阻害。

致し方ない場合を除き、確実に開演時間までに到着しよう。時間ギリギリの観劇スケジュールも非推奨。

大抵は30-45分前に開場し、着席可能。早く着いていい。

初めて行く劇場なら、事前に場所と所要時間を確認。

・トイレは開演前、できたら来場前に

仕方ない時は仕方ない、けど開演中にトイレに行くのは他の観客の邪魔になるし、何より自分が演劇を楽しめない。開演前に済ませよう。

※開演前・幕間のトイレ(特に女性トイレ)は大変な混雑
特に幕間は20-30分程度。トイレに行けない場合も。
駅やコンビニで済ませてからの来場が最適。

・スマホの電源は切る
開演中にスマホの光、音、振動
→現実に引き戻されてしまう。

スマートウォッチなど、音や光の出る他の電子機器も同様。電源を切って鞄へ。

②上演中
・後方の観客の視界を妨げない
帽子は外す。
前かがみにならず、背もたれに背中を付けたままで。
お団子など、頭頂部から突出した髪型は避ける。
拍手・手拍子でも手を頭より上に上げない。

…例を挙げたらキリが無いが、普通に考えて後ろの観客の邪魔になりそうなことをせず、大人しく座っていれば問題無い。

・静かに

喋るな。


感想の共有は終演後に。
・拍手、手拍子
とりあえず周りに合わせておけば大丈夫。難しいことは考えず、周りの観客と一緒に楽しむ意識でいれば誰も咎めない。

・笑い声
面白いシーンでは存分に笑っていい。
演劇は、役者と観客の相互作用によって形作られる。
よく笑う観客の前では、役者は安心して100%以上の演技ができる。



3.演劇を楽しむための基礎知識



①スタッフワーク
演劇の制作者は、役者や脚本家だけではない。
多くのスタッフワークが作品の完成に寄与。
スタッフワークへの気付きが作品への理解に繋がる。

・照明
現代における大抵の演劇は、上演中、ずっと同じ明かりがついているわけではない。
場面の転換、人物の登場、重要な会話など、
照明は観客の注意を引いたり、シーンに対する印象を操ったり、多くの意図をもって多様に変化する。
・音響
効果音やBGM。
どんな音を流すか?どのシーンに音を入れるか?音量はどの程度で?
あらゆる微調整が繰り返された響きは、観客が気付かずとも作品の印象を大きく変えている。
・衣装
登場人物の人柄に合わせた服装、舞台上の世界の季節を説明するための服装、あるいは物語の帰結を密かに表すための服装。
衣装は、役者がその日たまたまクローゼットから引っ張ってきた服では無い。全てが考えられた末の結論である。
・舞台美術
観客の目の前に現れる舞台の姿に、最も影響を与える。
床の色、台の形、位置、時計が指す時刻、壁の絵柄、あるいは何も置かれない舞台、なんとなく決めたものなど無い。
・演出
役者の動きや立ち位置、登場のタイミング。それに合わせた各スタッフワーク。
演出は作品の全てを司り、観客の目の前に世界を作り上げる。
出演者やスタッフは各々好き勝手にやっているのでは無い。演出というひとつの意思の下に、ひとつの作品を作っている。

②上手・下手
客席から舞台に向かって右側が上手(かみて)、左側が下手(しもて)。

照明がなかった時代、舞台は常に南向きに作られていたため、現代でも上手が東、下手が西。
→上手から差し込む光は朝陽、下手からの光は夕陽。
(さらに深堀りすれば、朝陽は「始まり」、夕陽は「終わり」のモチーフである。
冒険、希望、青春、あるいは二人の関係。物語の中で重要なものの始まりと終わりが、差し込む光によって表現されるのは、よくある技法である)

③広報活動
劇団のSNS、あるいは公演ごとに開設されるアカウント。
公演情報やあらすじ、出演者のコメント、舞台に秘められた小ネタなど、様々な情報を発信。
無くても楽しめるが、あったら何倍も楽しめる情報。
チケット情報もSNSなら入手しやすい。

④物販
・公演プログラム、パンフレット
出演者の舞台写真やコメント、演出とスタッフの対談など、終演後も公演を咀嚼できる。

・台本
上演に使われた台本が販売されていることも。
読むことで観劇時の感動を思い出せる、公演の圧縮版。
詳しい楽しみ方は以前の記事で↓
https://weebee1212.com/shintame/content.php?id=215&writer_id=76



⑤オペラグラス
大きな劇場に行くなら必携。
A席、B席からだと役者の表情は見えない。
ただ、役者の演技は表情や細かな動作にも及ぶ。距離による解像度の低さはオペラグラスでカバー。

⑥のど飴・水
風邪を引いてなくても咳が止まらなくなることがある。
のど飴、さらに水を開演前に口に入れて喉を潤しておこう。
上演中でものど飴・水は摂取して良し。多少音が鳴っても、上演中に咳をし続けるよりは何倍もマシ。



4.[余談]観劇スキル


観劇に、難しいことは必要ない。しかし知識があれば、それだけ楽しめる要素が増えていく。

 知識は我々の観劇に、何を与えてくれるか。

 それは「視点」だろう。

 先に記載したスタッフワークなどは、我々がその存在を知らずとも、変わらず演劇を支えている。
しかしその存在を知った今、演劇を観る時に我々は、照明の動き、細かな効果音、舞台美術での表現等、スタッフワークによる表現にも気付く「視点」を得られた。

 そしてこの視点というのは、習熟していくものである。

 始めは「ああ、照明が強くなったぞ。綺麗なシーンだな」という感想だったのが(もちろんそういった感想でも十分、その作品を楽しめているが)、「ああ、上手から光が差し込んできた。朝陽か。この2人はこれから、希望に向かって進んでいくんだな」といった風に、ひとつの気づきに意味を見出し、自発的に感動することもできるようになる。

 視点を習熟させるためには、考えることが必要である。

 演劇を鑑賞し、ひとつひとつの気付きに、自分なりに意味を与えていく。そういった作業の繰り返しによって、深い、そして自分だけの鑑賞が可能になるのだろう。

 このようなことを考えていると、たまにYouTubeでオススメされる、人気映画の考察動画が脳裏によぎる。その中で行われる作業も、「意味づけ」に他ならない。しかしその結論は大抵、「裏設定」とか「監督のメッセージ」といったものに収束しているように思われる。

 作品を鑑賞した際の気付きから、ストーリーの設定やメッセージ性に意味を求めるのは、多種多様な意味づけの中の、ひとつのパターンに過ぎないということは、強調しておきたい。

演劇の場合は特にである。

 映画と演劇は、同じく時間芸術(鑑賞者の鑑賞時間を規定する芸術)で、同じように人が演技する様子によって物語が届けられるものとして、類似する芸術として扱われることが多い。

 では、その違いは何か。

 それこそ、このレジュメで最初に記したもの、「舞台」である。制作者と観客は、ひとつの空間を共有しているのである。

 こういった経験はないだろうか。その時はめちゃくちゃ面白かった会話を他人に伝えてみたが、面白さが伝わっていない様子である。あるいは感動的な風景を目撃して写真に収めたが、後で見返しても、その時目にした時ほどの感動はない。

 これは、演劇も持っている、「その場性」による感動の大きな特徴である。

その場でひとつの空間を共有した人間、風景、世界から得られる感動は、写真に撮っても、映像で記録しても、いくら言葉を重ねて表現しても、再現されることはないのである。

 演劇はストーリーを伝えることの他に、少なくない作品でそれ以上に、同じ空間を共有する観客に空気感を伝えたり、ひとつの世界を目撃させたりする(ストーリー性の薄い、ショーと呼ばれる演目などはわかりやすい例だろう)。
 そのため、観客が作品から得る気付きはストーリーに帰着させるのではなく、空気感の共有や、観客の目の前での輝かしい世界の創出に紐づけることの方が適していることもある。

 演劇は、単なる物語の媒体である以上の力をもって、我々の目の前に現れるのである。
 その躍動の中の機微が、作品のどこに貢献しているのか、それは我々観客がそれぞれの仕方で受け取れるもので、選択肢は膨大に用意されている。ここまで理解できれば十分だ。あとは自ら、劇場に足を運んで自分の楽しみを見つけてきて欲しい。
 演劇は、その瞬間に成立するのだ。




この記事を書いた人

もやしの人

もやしは下宿生の味方。

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