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神大生による言語学布教~マリカとマリパは言語的に異なる?~

ゆすらうめ





この記事の内容を一言で言うなら、「タイトル通り」である


正直、「言語学」の部分よりもマリカマリパにつられてクリックした読者が多いことだろうが、ぐっとこらえて最初の話を聞いてほしい。


言語学は、大まかに言うとあらゆる言語の「音」や「文法」や「意味」について研究している学問だ。個別言語の特徴だったり、複数言語を比較して発見できる類型だったり、あるいはすべての言語に見られる規範だったりを研究している(もちろん実際の研究範囲はもっと広い)。


と、言ってもあんまりピンとこないだろう。 そこで、実際にどんなことをしているのか、ひとつ実例を見ていただこうと思う。


以下に述べる文章は、2025年度に私が提出したレポートの焼き直しである。そのため、内容の正確性には目を瞑って、ただ「こんなことしてるんだなあ」と思ってほしい。また、同じ言語学徒の皆さまについては(できるだけ読んでほしくない気持ちはあるが、読んだなら)ぜひ各々の意見をお聞かせ願いたい。

ちなみにこのブログは、文中に出てくるアンケートに協力していただいたKooBee(このサイトの運営サークル)メンバーへの謝辞も兼ねている。こんな結果になったんだと思ってくれると嬉しい。



マリカとマリパは言語学的に異なる?


さて、今回のテーマは「複合語短縮規則」そして「マリオカート」と「マリオパーティ」である。


「複合語短縮規則」という用語は漢字だらけだし長いしで、少し忌避感を持ってしまうかもしれない。だが、分解してみると理解は容易である。


まず「複合語」は、たとえば「パーソナルコンピュータ」が「パソコン」になるように、2語以上の語がくっついて1語になることを指す。このとき、1語目と2語目の頭からそれぞれ2字持ってきて語の長さを短縮する。この規則こそ「短縮規則」である。

長くてまどろっこしいので、以降は「短くするルール」とでも呼ぼう。


だが、この短くするルールには多くの例外がある。


そのうちのひとつが、「テレフォンカード→テレカ」に代表される「語末短母音化規則」だ。「テレフォンカード」は規則通りに短縮すると「テレカー」になるはずである。しかし、このように複合語の語末に長母音「ー」がくるとき、この長母音はなくなる(短母音化する)。そうして「テレカ」が生成されるのである。 これも長いので、「伸ばさないルール」と呼ぶことにする。


さて、前提知識を与えたところで、演習問題を解いてみてほしい。短くするルールと伸ばさないルールを「マリオカート」「マリオパーティ」に適用させるとどうなるだろう。


答えは「マリカ」「マリパ」だ。短縮形の生成過程を(1)に挙げる。


(1)

a. マリオ̶#カート→マリカー→マリカ

b. マリオ̶#パーティ→マリパー→マリパ


いたってルール通りである。が、筆者の近年の観察によると、マリオカートのことを「マリカ」でなく「マリカー」と短縮している例が多数見られる。読者の中にも、「マリカー」と短縮する人がいるのではないだろうか。

それに対して、「マリパー」と言っている人は見たことがない。となれば、「マリカー」だけが、伸ばさないルールに違反しても大丈夫ということになる。 この差はどのように生まれるのだろう。それがこのレポートの問いである。


いや、「マリカー」とか聞いたことないし、そんなん言えないよ。そう思った読者もいるだろうから、筆者は独自にアンケートを実施した。

図中では「容認度調査」とかいうそれらしい名前がついているが、「言ってもOK度調査」とでも思ってくれたらOKだ。要はその言葉にどれだけ違和感がないかを尋ねたアンケートである。それぞれの言葉について、5段階(1は「違和感あり」、5は「違和感なし」)で評価してもらった。

さて、上記に示した図のうち、「マリパー」だけが右下がりの評価を受けている、すなわち、言ってもOK度が低いという結果になっているのがわかるだろうか。つまり、前に述べた観察は正しかったということになる。


ここからが考察、大事なパートだ。大変だが、ついてきてほしい。


考えられる原因について、ひとつひとつ検証していこう。言語学には大きく①音、②文法、③意味 の分野があることを最初に述べたと思うが、それぞれについて原因である可能性を疑ってみる。


①音

音という観点だと、「カ」と「パ」で子音(kとp)が違うことが思い浮かぶ。「カ」が音的に特別だという予想だ。

しかしながらこの予想ははずれだ。「テレカ」が「テレカー」になれないからである。「カ」が特別であるなら「テレカー」もOKになるはずだし、他の「カー」で終わる複合語も全部語末を短くしなくてもよいはずだ。

残念ながら、最も有力な音の線はなくなった。


②文法

次に考えたいのは、何か文法的にこの違いが起きているという予想であるが、これもはずれだということにすぐ気づくだろう。なぜならどちらも名詞であるので、そこに文法的違いを見出せないからだ。


③意味

最後の砦、意味である。このパートは少々長くなる。


まず参照すべきなのが、通称「マリカー裁判」と呼ばれる一連の出来事だ。

マリカー裁判について簡単に説明すると、株式会社マリカーという、公道を走れるゴーカートやマリオに扮することができる衣装のレンタルを行っていた企業に対して、任天堂が不正競争防止法違反や著作権侵害を掲げて提訴したという事件である。任天堂は、「マリカーはマリオカートの略称である」と主張したのだ。


ここで最も注目してほしいのが、株式会社マリカーは、外国語表示のホームページでは社名を「MariCar」と表示していたということだ。


任天堂の「マリオカート」は、英語では「MARIO KART」と表記されている。ここから単に短くするルールを行っているなら、株式会社マリカーは「MariCar」ではなく「MariKar」と表示されるべきではないだろうか?


ここから何が言えるかというと、「マリカー」の「カー」の部分が、「kart(カート)」の一部分ではなく、「car」として認識されているのではないか?ということである。「kart」と「car」では意味的な違いも小さく、混同する可能性も大いにあるといえるだろう。


つまりこうだ。


(2)「マリカー」の「カー」は、本来であれば「kart」の短縮形であるはずだが、「car」と再分析され、伸ばさないルールを適用する前に、「マリカー」という短縮形がOKになる


伸ばさないルールよりも意味の解釈が先行し、「マリカー」の言ってもOK度が上がっている、という考察である。これを図式化するとこうなる。


(3)マリオ#カート→マリカー→mari+carと解釈→マリカ


ぜひ(1a)と比べて見てみてほしい。(3)の方は、最後の「マリカ」の生成がキャンセルされていることがよくわかるだろう。


さて、となると新たに考察しなければいけないことがある。それは、なぜcarの意味解釈が生じるのか、ということだ。


これについても、以下の例がよい示唆を与えてくれる。


(4)パトロール#カー→パトカー、*パトカ


(4)の最後に「*パトカ」とあるのがわかるだろうか。これは、「パトカとは言わないよ」という意味の記述である。 つまり、パトカーに伸ばさないルールは適用されない、ということになる。


これは、複合語の2語目が「カー」であり「カート」とは異なるために、(1a)とは異なる結果が得られたのだと考えられる。つまり、もしマリオカートがこの名でなく「マリオカー」として発売されていたなら、(4)と同じように「マリカー」という短縮形がOKになった(もはや「マリカ」という短縮形の方が言ってもOK度が低い)のではないかということを示す。


つまり、なぜcarの意味解釈が生じるのかという問いに対しての答えはこうだ。


(5)パトカーなどの他のcarとつく短縮語の知識が「マリカー」を解釈する際にも想起され、類推が行われる。



言語学を布教させてくれ


……議論は以上だ。どうだっただろうか。(1)~(5)を読んでみて、一度脳を整理してほしい。


もちろん以上の考察にはいくつもの問題点や疑わしい部分があるが、一介の学部生のレポートなどこういうものなのでお許しいただきたい。また、他にもこういう反例があるじゃん、と思った方には言語学の才能があるので、ぜひその門戸を叩いてみてほしい。


筆者が言語学を布教したいと思う理由は、「さまざまな学問領域にまたがり、人文科学と自然科学の中間に位置する」からである。


たとえば地理学と結びつくと、方言研究などの方面になる(富士川が塩と方言を運んできた、という研究結果などがある)し、脳科学と結びつくと、言語習得研究などの方面になる(なんで母語よりも第二言語の方が習得に時間がかかるのか? 赤ちゃんよりも大人の方が学習能力は高いはず)。


これらの結びつきはかなり広範囲である。法言語学、社会言語学、計算言語学、進化言語学なんてものもあるらしい。正直言ってなんでもありなのだが、それもこれも、世界の営みのほとんどすべてに「言語」が必要だからだ。コンピュータ言語も、手話も、点字も、すべて言語である。


あなたの興味の中にも言語は眠っているはずだ。その言語の面白さ、言語を研究することの趣深さを、少しでも知っていただけたら嬉しい。


語りたいことや補足したい部分はまだまだたくさんあるが、それこそ卒論レベルの長さになってしまうのでここらでやめておこう。


最後に、レポートの焼き直し部分についての参考文献をそれらしく載せて終わりにしたい。



参考文献


1. 窪園治夫. 一般言語学から見た日本語の音韻構造. くろしお出版, 2025.

2. 井関龍太. “日本語の複合語短縮における長音の短音化現象の検討:話し手目線に基づく解釈の可能性.” 認知科学. 第31巻. 第1号(2024). pp.91-109

3. ゲームエイト. “マリオカートワールド攻略|マリカワールド.” https://game8.jp/mariokart-world , (2025-12-22参照)

4. ゲームエイト. “マリオパーティスーパースターズ攻略|マリパSwitch.” https://game8.jp/marioparty-superstars . (2025-12-22参照)

5. BUSINESS LAWYERS. “任天堂「マリカー」訴訟、知財高裁の中間判決が示したゲーム名・キャラクターの許されない使用とは?.” https://www.businesslawyers.jp/articles/612, (2025-12-22参照)

6. 企業法務ナビ. “任天堂が「マリカー」を提訴、著作権侵害の要件について.” https://www.corporate-legal.jp/news/2635. (2025-12-22参照)

7. 日比谷潤子. “複合語短縮.” 世界の日本語教育, 8, 1998.


スペシャルサンクス:言語学共同研究室の本棚(トップ画像に使用)



この記事を書いた人

ゆすらうめ

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