続いての相談相手は法学部2回生のTさん。大手志向が今後の就職活動の枷になりそうだと不安に考えている彼女に、中西さんが新たな視点をもたらします。
大手志向は正しいの?
Tさん :中西さん、よろしくお願いします。今悩んでいるのは、「 就職先は 大手企業にすべきか」ということです。私の親が、いわゆる大手志向で、大きな企業で働くことを強く勧めてきます。そういう環境で育ったこともあ り 、私自身も大きな企業でバリバリ働くことに憧れ があり 、どちらかと言えば 同じ 志向です。でも、大手は倍率も高いですし、こういった偏った考え方だと苦労しそうで不安です…。
中西さん : お気持ちはよく 分かります。僕自身も そうで した。親御さんは、大手志向ということですが、どうしてそう仰るんでしょう ね ?
Tさん:うーん…。倒産のリスクが少ないからかなと思っています。
中西さん : なるほど。 大手は安泰という時代は終わった なんて 言われ つつも 、やはり大手は強い。 実際、 コロナ禍においても、有名大手 企業 が倒産したというニュースは聞かない ですよね 。統計的にも、大手企業は総じて給料が良く、福利厚生 も 整っているそうです。人生の大先輩である親御さんのご意見には一理も二 理 もあるのだと思います。
Tさん:そう言っていただくと、なんだか安心しますね。
中西さん :ええ。ただし、 それ を踏まえたうえで聞いてほしいんですが、現在は、 これまでほど 大手が良いとは言い切れなくなっていると思うんです。
Tさん:どうしてですか?
中西さん :それは、 「人材の流動性」が高まっている からです。簡単に言えば、 転職が当たり前になっている 。そ もそ も、大企業の人事制度というのは、 転職を前提としていません。 新卒で入社し、 定年まで勤め上げれば、一生面倒を見てもらえるというのが 大きな魅力でした。
Tさん:はい。イメージが湧きます。
中西さん : だから、 僕たちの親世代は、転職にネガティブな人が多い。転職はやむを得ず行うものであり、給料 は 下が って 当然という通念があった。実際、 転職 市場 は 未成熟で、 会社を辞めてキャリアアップをする人は 少なかったのです 。それならば、安定感のある大手 企業に入って、出世 の階段を登っていく のが合理的です よね 。
Tさん :キャリア観は、社会環境の影響を受けるということですね。
中西さん :しかし、現在、 ひと昔前 の 常識が通用 しなくなっている。ベンチャーはもとより、日本を代表する 企業 の社長が、終身雇用 は終わったと 宣言する時代です。人間の寿命が延びる一方で、事業の寿命は短命にな る今、 一頭の勝ち馬 に生涯乗り続けられる人は、ほんの一握りなのです。 完全にフィクションなのです。
Tさん:では、私 たち は 何を拠り所に 生きればよいのでしょうか。
中西さん :つまるところ、 自分自身に力をつける しか な いと僕は思います。 勝ち馬に乗 る という以上に、どんな馬に乗っても勝てるジョッキーにな ることを目指す べきです。 先ほど挙げた 社長も、「プロになろう よ 」という表現で、自分自身を研鑽する重要性を強調しています。
Tさん: それは、どんな職種についても言えることでしょうか。 流動的なイメージが強いエンジニアなどの技術職だけでなく、営業や事務のような文系職でも同様ですか?
中西さん :そう だと 思いますし、コロナ禍で よりそうなるでしょう 。だから私たちは、 転職を前提に、 「自分のスキルが、他の会社でも通用するのか」という ことを常に自問しなくてはなりません。 神戸大学経営学部出身のベストセラー作家・北野唯我さんも、『転職の思考法』の中で、上司ではなく、市場を見ることが大事だと書かれています。
Tさん:とても納得感があります。
中西さん:キャリアの専門用語で、組織を離れても でも通用する能力のことを、「ポータブルスキル(持ち運び可能なスキル)」 と呼びます。これを高めて おけば 、いざという とき に 会社を移ること できますし、人生の舵取りを自分で行うことが出来ます。
Tさん:なるほど。 ポータブルスキルを磨いて、個の時代に適応していくことが必要 なんですね。
中西さん : まさに そういうことです。 今の時代には、 大手、ベンチャーどちらが良いか?という論点自体が、ナンセンス なのです。それよりも、 個の力を高めるという 目的意識 を持ち、それに合った 環境 を掴み取っていく 方が、本質的な「安定」が得られると思います。 その気概があれば、どのような企業規模の会社に入ろうと、 必ず その人は成長できます。
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大手志向の神大生は 多いと思います。 しかし、大手=安泰という図式は過去のものとなりつつあります。究極的に、安泰の源泉は、自分自身です。ポータブルスキルを意識し 、主体的な 就職活動を考えてみてはいかがでしょうか。