3月上旬――

僕は、「自己PR問題」で頭を悩ませていた。

自己PRとは、いわば就活における「名刺」のようなものだ。小粋なエピソードを交えつつ、自分の強みや持ち味を企業に売り込む。しかし、これがなかなか難しい。

 

僕は自己分析ノートに記した過去の経験の中から、自分の強みと言えそうなものを、エピソードと共にいくつか書き出してみた。

高校時代、野球部の試合で見せた「逆境力」

塾講師のバイトで培った「指導力」

ゼミの研究で発揮した「粘り強さ」

 

……

うーん、方向性すら定まらない。

 

「先生、どれが一番いいですかね」僕は孔明に紙を差し出した。

だが、孔明は一瞥もくれることなく言った。

どれでも良いし、どれも良くない

「ちょっと、先生!読みもせずに、どうしてそんなことが言えるんですか」

「ふんっ。見るまでもないわ。お前は、自己PRに対する考え方が全くなっておらんからな。

よし。今日はお前に、自己PRについて骨の髄まで叩きこんでやろう。その前に、ゴホンっ、薬を買って来てくれんか。ゴホンっ……」

「先生、大丈夫ですか?風邪ですか?すぐに買って来ますね」

 

僕は近所の薬局にやって来た。棚には無数の薬が並んでいる。さて、どれにしようか。

僕は、孔明の症状を思い出し、「喉からくる風邪を3分で撃退!」という効能が書かれた薬を手に取った。

しかしこれ、本当に効くのだろうか。不審に思って薬剤師さんに尋ねると、丁寧に教えてくれた。「ノドナオースZ」という成分がとにかくスゴイらしい。

納得した僕はその薬を購入した。

 

家に帰ると、孔明がけろりとした顔で、妹の佳林と映画を観ていた。

「あれ?先生、風邪は?」

「ああ、治った」孔明は悪びれもせず言った。

「なんですかそれ!僕の労力返して下さいよ」

「まぁそう怒るな。わしが何の意味もなく、お前に薬を買いに行かせたと思うか。薬局には、自己PRの全てがあるのだ」

「……」

「鈍感な奴だな。では亮、薬を選ぶとき、まず何に注目した?」

僕は薬局での行動を思い出してみた。

「えーと……、最初は薬の『効能』に注目しました」

「うむ。当然、何に効くかをまず確かめるよな。そして、その次は?」

「『成分』です。効能の根拠が気になったので」

「かかか!お前を薬局に行かせた甲斐があったようだ」

「はぁ……」

 

「よいか、自己PRを考えるコツは、自分を薬だと考えることだ」

「自分を薬と考える?」

「そう。面接とはいわば、自分という薬を、面接官に売り込むようなものだ。自分を買わせようと思えば、まずは効能を示さなくてはならない。

すなわち、『自分を採用すれば、会社にこんな良いことがあります』とアピールするのだ」

「あ!それ、志望動機で貢献を語るケネディ理論ですね。」

「そうだ。だが、口で効能を言うだけなら誰でも出来る。面接官は当然、『本当に君に出来るのか』と疑うだろう。そこで、効能の根拠となる成分を伝えなくてはならない」

「分かりました。そのための自己PRですね!」

「そうだ。自己PRとは、いわばお前という薬の成分表示なのだ。ということは、自己PRの良し悪しは、あくまで志望動機とのマッチングで決まる。

自己PRだけを見て、絶対的に良い悪いと判断することは出来ないのだ。薬でも、効能が分からないのに、『このビタミンXはとにかくすごいのです!』と言われても、困ってしまうだろう」

「なるほど!自己PRを考えるときは、志望動機との関連性を考えることが大事なんですね」

 

この考え方を知った僕は、まず自分の志望動機を頭に浮かべた。僕はテレビ局で新しいビジネスモデルを作りたいと考えている。いうなれば、これが僕の効能だ。

ということは、自己PRは、この話に真実味を持たせるようなものでなくてはならない。

では、新しいビジネスモデルを作るために必要な能力って何だろう。

考えた結果、それは、漠然と「0から何かを生み出すような力」ではないかという仮説に辿り着いた。

なるほど、この力が僕の中に成分として存在することを示せばいいのか。漠としていた自己PRに方向性が見えた。

 

そこで、こんな力を発揮したエピソードはあったかと過去を振り返ると、「秋新歓」というイベントを立ち上げたことが思い当たった。

これなら、成分表示として使えるかもしれない。僕は秋新歓を基に自己PRを作ってみた。

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