「あの牧先輩が帰ってくる」というニュースが、SNSのタイムラインに流れた。
牧さんは、サークルの先輩で、僕の憧れの人だ。
僕が1回生の時、牧さんは学園祭の実行委員長だった。今は東京のテレビ局で働いている。
何としても牧さんとお話ししたいと思った僕は、すぐに連絡し、お会いする約束を取り付けた。
約束当日、僕たちは知るカフェで会った。
「へぇ、こんなカフェが出来たんだ」牧さんはしきりに感心している。
「牧さん、実は僕、テレビ局を受けているんです」僕は本題に入った。
「そうなんだ!いいじゃん。小林は、テレビ局でどんな仕事がしたいの」
「バラエティ番組を作りたいって面接では言ってます。でもそれだけじゃなくて、例えば、野球中継を増やしたいと思っています。最近、野球中継ってめちゃくちゃ減ってしまったじゃないですか。野球が好きなんで、もっと増やしたいんですよ!」
僕はその後も、自分がしたいことをまくし立てた。先輩はうんうんと頷きながら話を聞いてくれた。
「小林は変わってねえな。面白いヤツだよ」牧さんは笑った。
「そ、そうですか!」僕は褒められて顔が赤くなった。
「ただな……」牧さんが急に真面目な顔になって言った。
「今のお前には、『決定的に足りないもの』がある。
それを身につけないと、内定まで辿り着くのは、無理だろうな」
いつも褒めてくれる牧さんの急なダメ出しに、僕は束の間、言葉を失った。
「先輩、僕に足りないものって何ですか……」
「それは宿題にしておこう。俺は明後日まで神戸にいる。自分に足りないものが分かったら、俺に会いにこい」
牧先輩はそう言い残し、颯爽と帰って行った。
僕は家に帰ると、孔明に今日のいきさつを話した。
話を聞き終えた孔明が、急に神妙な面持ちになって言った。
「亮よ、ついに、『ケネディ理論』を教えるときが来たか」
「ケネディ理論……」
「この理論は、エビタイ理論と対を成す志望動機二大理論の一つで、わしの教えの中でも奥義に相当する。この理論をマスターして初めて、志望動機は究極になる」
「先生!早くそれを教えてください……!」
「うむ。そう焦るな」孔明ははやる僕を、扇で制した。
「志望動機を聞かれると、多くの就活生は、成長したい、社風が好き、海外で働きたいなんていうことを言う。まぁどれも、別に悪いことではない。
しかし、これらには、共通して決定的に欠けているものがある。それが何か分かるか」
「うーん……」僕は今、孔明が出した例を、頭の中でぐるぐると考えみた。
成長したい、社風が好き、海外で働きたい……
ハッ!僕は気付いた。
「先生、分かりました。これらに欠けているのは、『企業の視点』です。
自分がその会社で得られるメリットばかりが主張されていて、自分を採ることで、会社に何のメリットがあるかという点が全く考慮されていません」
言いながら、これが他人事ではないことに気付いていた。牧さんに話したことの中にも、企業の視点は全然盛り込まれていなかった。
「うむ。まさにその通りだ。就活生は、とかく自分のことばかりに目が行き、自分が会社に対して、どんな貢献が出来るかを全然考えない。
しかし、言うまでもなく、会社はお前たちの自己実現の為に存在しているのではない」
「なるほど……。そこが大学生のサークルとは違うのですね」
「そういうことだ。かつて、アメリカ大統領のケネディ君はこう言った。『国があなたのために何をしてくれるかでなく、あなたが国のために何が出来るかを考えなさい』と。
就活生も、アメリカ国民と同じだ!いついかなる時も、会社が自分のために何をしてくれるかでなく、自分が会社のためにどんな貢献が出来るかを考え、伝えろ。これがケネディ理論だ」