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No.77

息苦しさのない社会をつくりたい

山口弘記

(『えんぴつ画プログラム』講師工学部/情報知能学科 1回生)

Presented by Kohei Moriyama, Akamatsu Kazuk

Photo by Ririki Nakabayashi


短時間で驚くようなクオリティの鉛筆画が誰にでも描けるという『えんぴつ画プログラム』。その考案者は、今の日本に息苦しさを感じていた。“アート教育で社会を変えていきたい”そう語る彼の『えんぴつ画プログラム』に込められた想いとは?

PROFILE

山口弘記

アートって上手い下手の基準じゃない

-『えんぴつ画プログラム』の内容を教えてください。


鉛筆画の本質を伝えるために、短時間でもクオリティの高い、かつ楽しめるような鉛筆画が描ける技術を教えています。主に今までアートに触れ合ってこなかった人たちに教えたくて、絵に苦手意識がある人にもこのプログラムを通して「意外と私って描けるんや」って感じてもらいたいですね。それがきっかけで鉛筆画を本格的に始めてみようかなとか、今後、絵を描くときにプログラムで教えたことを思い出してもらうとか、プログラムの後にも影響を与えることができたらな、と思っています。中には自分で鉛筆を買って「こんなん描いたんですけど」って持って来てくれる人もいて、そういうのはめっちゃうれしいですね。

-『えんぴつ画プログラム』は山口さん一人で考えたのですか?


webサイトを作ったりとかも含めて全部1人でやっていますが、結局いろんな人の支えがやっぱりあって。元々は表現するための単なるアートとして、鉛筆画をやっていたんです。でも、大学入ってすぐに4回生の先輩と話す機会があって、その方に鉛筆画を見せたときに、「お前それでなんかできるぞ」って言ってくださったんです。それで鉛筆画で社会を動かせるような可能性に気づいて、その日のうちにこのプログラムをつくりあげました。その先輩の助言をチャンスやと思ったとき、ぱっと飛び込むというか、ある意味楽観的に挑戦してみたんです。もちろんその先輩だけじゃなくていろんな人と話しまくってアイディアを吸収しながらやってきました。だから、僕一人で考えたかって言われると、そうじゃないですね。

-なぜ鉛筆画を教えているのですか?


僕、関心があることがあって、アート教育で何かを変えていきたいと思っているんですね。日本のアート教育は他の国と比べて圧倒的に不足していると考えています。ちょっと前にニューヨークに行ったんですけど、向こうでは何かから解放されているような気分になったんですね。「それってなんでだったんだろう?」と考えたときに、アーティストがたくさん集まっているニューヨークだからこそ、相手の性格や個性などありのままを尊重できる雰囲気があったからかなって。一方で日本では、周りと違うことも多かった僕自身の実感として、「出る杭は打たれる」風潮が未だに強いと思います。そこで周りから浮かないように自分を隠す人も多いのではないでしょうか。僕はその風潮を根本から変えるためにアート教育が役割を果たせると考えています。僕がやっているのは単純に鉛筆画の技術を教えることですが、そこから「アートって楽しい」と思ってもらって、アートを自分を表現する手段にしてほしい。そしていつかは僕がいつも息苦しさと呼んでいる周囲の目線を考えずに、自分がいいと思ったことを表現できる社会をつくりたいです。そのために今は身近なところから変えていく気持ちで神戸大学を中心に活動しています。

-鉛筆画の魅力を教えてください。


一つは白と黒だけの美しさですね。個人的に白と黒がめっちゃ美しいと思っていて。いろんな色は必要なくて、どんなものでも白と黒のグラデーションで表現できるんです。そこに魅了されてきました。
あとは、鉛筆画って間違えても消したら戻れるって感覚の人も多いと思うんですけど、そうじゃなくて。描いてる身からすると、一回描いた線って消しても跡が残るので完全にはやり直しができないんです。それと僕の尊敬する空想鉛筆画家の藤澤ユキ*¹さんの影響もあって、僕は消しゴムを使いません。なのでさっき描いた線から次どう描いていくのかという風に一つの流れで完成させていくしかないんです。そういう後戻りできないところも人生みたいで好きですね。

*1 藤澤ユキ
鉛筆を中心に空想絵画を製作。1983年、静岡県生まれ、浜松市在住。空想鉛筆画家。
鉛筆という媒体を用いて、静岡県浜松市を中心に数々の個展や展覧会への参加、メジャーミュージシャンのCDジャケットイラストを手掛けるなど、県内外で活動中。数々の異ジャンルアーティストとのコラボレーションを始め、鉛筆の可能性を広げるアーティストの一人。2014年より、手彫りZIPPOブランド""SINCE""を始動させる。

-そんな鉛筆画でこれからさらにチャレンジしようと思っていることはありますか?


はい。鉛筆だけを持ってイギリスからスタートし、ヨーロッパ中を旅する『えんぴつ画サバイバル』にチャレンジします。そのために『えんぴつ画ファンディング』というものを作って資金を集めようと思っています。どこまで行けるか分からないですけど、できる限り色んなところをまわって、鉛筆画とかアートの可能性を試したいですね。
ひとまず目的は日本を出ることなんですけど、行った結果どうなるかが僕にとって重要なんです。もしうまくいったら、鉛筆画が今後世界中どこでもやっていける可能性があるなとか、逆にうまくいかなければ何か違うんだろうなとか、今後の展開が見えてくると思っています。あとは、鉛筆だけもっていくってところにインパクトがあると思うので、アート教育関係に良い影響を与えることができるんじゃないかと思っています。

-そもそも山口さんにとってアートって何なのでしょう?


僕はアーティストとしてまだまだ未熟で、アートとは何か分からない部分もあります。今あえて言うなら、頭の中にあることをただ表現するものではなくて、゙今までの自分全体の歴史を意識せずとも表出できるようなもの”ですかね。こういう風に描くんだ、って決めて描き始めるんじゃなくて、ほぼ無意識に絵を描く。描きたい絵が頭の中にできている状態なら描く必要はないんです。それでこそ自分の本質的なところが表出されると思います。
それと、一般的に、クリエイティブにアートを続けていく難しさみたいなものはあると思っています。例えば、絵が好きで描いてる人がいたとして、その人の絵が一般的に言われる下手な、でもクリエイティブな絵だったとするじゃないですか。すると、それを見たときに周りは「うわ!下手やん。」という雰囲気になってしまう。その結果、その人は楽しくなくなって結局絵をやめてしまうんですね。現状だと上手くて褒められる人だけが続けていくようになっている。でも、アートって上手い下手の基準じゃないと僕は思っています。「なんか分かんないけどいいね」とか、「こういう雰囲気だよね」とか、「こういう時に見たい絵だよね」とか。上手い下手だけじゃなくて、もっと色んな基準で人の絵を評価したり楽しんだりしてほしい。アートはそれで十分なんですよ。でも上手くないと楽しくないことも実際あるのでほんとに難しい問題ですね。

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