No.60

最終的にお客さんがいいと思うものを作る

三ツ矢・M・たらお

(自由劇場 新入生歓迎公演「ゆめゆめこのじ」演出)

Presented by Mako Kameoka

Photo by Ririki Nakabayashi


演出ってどんなことをしているの?「ゆめゆめこのじ」演出の三ツ矢氏が、演出の仕事と気になる公演の裏側を語ります。

PROFILE

三ツ矢・M・たらお

「最終的にお客さんがいいと思うものを作る」

-自由劇場における、演出の仕事を教えてください。


まずジゲキには、演出希望者の人が自分のやりたい台本を持ち寄ってきて、それをみんなで選考する台本選考会があります。この台本選考会に出す台本の準備をするのが演出の第一の仕事。まずはその台本のことが好きじゃないと熱を傾けられないから、自分が熱を傾けられる台本を探します。あと、台本選考会ではプレゼンをするので、自分がやりたい作品の演出プランがどうやったらみんなに気に入ってもらえるかっていうことも考えますね。例えば、台本選考のプレゼンのときに、台本の「中身」だけじゃなくて、「実際関わる人がどういうことを得られるか」を説明するようにしたりとか。でもそれをちゃんと説明しようと思ったら、ちゃんと台本読まなあかんし、ちゃんと考えなあかん。でも、そういう風に、「みんなに気に入ってもらうためにやろう」と思ってることは、実は公演が良くなるために大事なことやったりするんよね。この台本準備と同時に、※1 各部署のチーフの選出も自分の頭の中で考えていって、「自分の案が通った場合は、すぐこの人に打診してみよう」って決めていく感じかな。台本が選ばれて実際に公演が始まったら、最終的な完成形から逆算して、「第一回通しはここまでやる」「第二回通しはここまでやる」っていう風に、通し稽古をチェックポイントのようにして進めていきます。まとめると、人員割りと、最終的な目標から逆算した全体的なプランを立てることが演出の主な仕事ですね。

-※1の注釈


ジゲキには、音響、照明、美術、制作、衣装、宣伝美術、映像、小道具など、10前後の部署がある。公演によっては、殺陣やパフォーマンスの部署が作られることもあり、これら各部署のリーダーのことをチーフと呼ぶ。

-演出担当者としてメンバーとコミュニケーションをとるのは難しいですか?


単純にその人の仕事の出来具合とかじゃなくって、その人の人間的なものも考慮せなあかんってのが大変やな~って思いますね。例えば、「お~すごいすごいすごい!いいねいいね!」って言って仕事を任せるのがいいのか、「もうちょっといけるやろ~」って言ってしまった方が最終的にいいものができるんかっていったら人それぞれ。「自分がこうしたい」ってよりも、「その人の場合こうしたら最終的に一番いいものができるんじゃないか」っていうのを考えて、人間的な部分を考慮してダメ出しするっていうのは気を遣ってますね。

-三ツ矢さんが演出を初めて担当したのが「ゆめゆめこのじ」だったそうですが、演出を経験する前と経験した後の心境の変化はありましたか?


演出を経験して、人から見た「客観」的なことを意識するようになったかなと思います。これまで※2 演出補佐は何回かやってきて、その時は自分が与えられたことを求められた通りにやったり、もしくは自分の中で満足って思う水準までやったりすればよかったんよね。でも、演出ってなると全然そんなことなくて、俺らがさぼってようが朝早く集まって練習してようが、それはどっちでもいいことで、「最終的にお客さんがいいと思うものを作る」っていう考え方をしてたから、ある意味結果主義というか、「客観」的な目線ってこれかなって分かった気がする。それでも自分のキャパを超える事はあったから、そういう時は素直に、その芝居を全然見てない人に、「どう思う?」って言って見せたりとかはちょくちょくした。一番最初に見てくれた人の印象の方が絶対お客さんの印象に近いから、自分の意見ではなく、「客観」的な印象を優先しないといけないこともあった。

-※2の注釈


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